24.
王族であるエメリーネが聖堂に向かうときは、事前に伝えられている。告解室を使うか否かは、エメリーネが聖堂に足を踏み入れてから決める。だが、王妃が亡くなってからは毎回、テレジア神に母との思い出を聞いてもらっていた。
「はい……」
たいていこの窓の向こうはベルトルトか大司教のデオバルトだ。守秘義務があるため、司教たちもここで聞いた内容は絶対に口外しないことになっているが、相手が王族となればまた別なのだろう。
エメリーネは、ゆっくり深呼吸し、とつとつと自分の悩みを口にした。
大事にされすぎて、学ぶ機会を失ってしまったこと。社交デビューを果たしたものの、来年、成人の儀を迎えるにあたって、成人王族として不安が残ること。
とにかく、勉強がしたい。王族としてふさわしい振る舞いをしたいと、熱い想いを伝えた。
その間、テレジア神は黙って話を聞いていた。
「そうですね」「それから、どうしましたか」と、話を促す言葉をかけるものの、エメリーネの言葉を決して否定はしない。
「わたくしは、わたくしを教育してくれる者を必要としています。テレジア神、そのような者に心当たりはございませんか?」
エメリーネがそう問いかけたことで、室内は静寂に包まれる。
窓の向こうのテレジア神も、考えているのだろう。
「……わかりました。迷える同士には、私が教えましょう」
驚いたエメリーネは、赤い瞳を大きく見開く。
だがこれは一度目の人生と同じ流れでもあった。
父を失ったとき、何も知らないエメリーネは、女王に仕立てられた。不安に押しつぶされそうになり、毎日のようにテレジア神に助けを求めた。業を煮やしたテレジア神は、エメリーネが知っている国内の情勢はほんの一部で、この国の大半が貧困で喘いでいると教えてくれたのだ。
テレジア神がそのようなことを教徒の一人に言うなど異例中の異例である。しかしテレジア神も、そうまでしなければこの国が潰れると思ったのだろう。むしろ、いつの間にかエメリーネには悪女という不名誉な二つ名まで。
そこからエメリーネはテレジア神、つまりベルトルトとデオバルトと手を組んだ。
「同士が学んだことを書き留めたとしても、その書き留めたものが誰かに見つかってもよろしくないでしょう。となれば、ここで、私の言葉に耳を傾け、その言葉を記憶すればいいのです」
記憶力との勝負だ。一気に詰め込むことはできない。だから必要なものを少しずつ教えてもらえばいい。
「テレジア神にお伺いします」
エメリーネの凛とした声が響く。
「わたくし、贈り物をくださった方にお礼状を送りたいのです。母が、お礼状を書くのが得意だと聞いておりましたが、残念ながら母のお礼状の写しが、わたくしの手元にはございません。わたくしも母のようなお礼状を書きたいのですが……どう書いたらいいのか、恥ずかしながらよくわかりません」
「わからないことをわからないと口にするのは恥ずかしいことではありません。王妃様のお礼状ですね。よく覚えています……」
彼は王妃のお礼状の内容を、事細かに語り始めた。言葉の選び方、相手への敬意、感謝の表現。その一つ一つが、まるで近くに王妃がいるのでは勘違いしそうなほど。
エメリーネは目を閉じ、その言葉を心に刻みつけた。ベルトルトの声は、まるでテレジア神そのものがエメリーネを導いているように聞こえた。




