15.
「ねえ、シーラ。わたくしも自分が無知だという自覚はあるの。アルマスはあそこで何をしようとしていたのか、あなたの考えを教えてくれないかしら? それによって、わたくしも何か気づくかもしれないでしょ? 先日だって、本来ならアルマスから直接贈り物を受け取るべきでないと、そう教えてくれたでしょう?」
「あっ……」
シーラは口を開き書けたが、はっとしたように身体を小さく震わせた。
「もしかしてシーラ。あなた、アルマスに脅されているの?」
「い、いえ……。そういったことではないのですが……」
どこか怯えた様子のシーラは、エメリーネから視線を逸らした。
ここでシーラのオーラが見えれば、彼女が包まれている色によって、その感情がわかったかもしれない。だけど、シーラのオーラは透明だから、彼女から言葉を引き出すしかない。
「あなたも知っているように、ここにはわたくしとあなたしかいないわ。一年前、わたくしについていた護衛もいなくなってしまったし」
エメリーネにだって、専属の護衛騎士がつけられていたのだ。だがそれも一年前、アルマスが『王城内だというのに、それほどまで護衛を侍らせていては、この城内は危険な場所だと示しているようなものでしょう?』とそんなことを言い出した。
当時、三人いたエメリーネの護衛は、騎士団の中でももっとも厳しいと言われる王都内の警備任務にまわされたと聞く。
(今ならわかるわ。あのとき、わたくしから護衛騎士を引き離したのも、わたくしを孤立させるため。すべてアルマスの企みだった)
そしてそれから一年経った今、今度はシーラを奪おうとしている。
だが彼女はエメリーネの気持ちをくみ取り、恐怖で身体を震わせながらも、アルマスに意見してくれたのだ。
となれば、やはりシーラを守るのはエメリーネしかいない。
「わたくしには信頼できる者があなたしかいないの。そんな大事な人が苦しんでいたら、助けになりたいと想うのは自然ではなくて?」
エメリーネのすがるような眼差しに、シーラも観念したかのように口を開いた。
「実は、ヨハンのことなんです」
「ヨハンとは、ヨハン・オウネル? あなたの婚約者の?」
その問いに、シーラはこくりと頷いた。
ヨハン・オウネルはシーラの婚約者であり、オウネル侯爵家の次男だ。結婚後は、ラモン伯爵家へ婿養子として迎えられる予定となっている。
ラモン伯爵にはシーラを含めて三人の子どもがいるが、全員が娘であった。
この国では王位継承権は性別を問わずに与えられるが、爵位は男性のみが継ぐと定められている。だから息子のいないラモン伯爵家では娘婿に爵位を継がせるか、あるいは養子を迎えてその者に継がせるしかない。
「オウネル侯爵家では、宰相閣下から援助を受けていたようで……」
それをシーラはあのパーティーの場で、こっそりと打ち明けられたようだ。
だが、エメリーネの中で点と点が繋がったような気がした。
間接的に、シーラもアルマスの魔の手に囚われていたのだ。
「返済時期は五年後だったというのに、ここにきて急に返せと言われたようで」
「それは……金銭的な援助ということでいいのかしら?」
シーラは小さく頷いた。
「いくらかわかる?」
それには「いいえ」と首を横に振る。
「あなたには悪いことをしてしまったわね。わたくしの命令だからって、アルマスに反抗的な態度を取らせて……あの人にとっては面白くないことだったでしょう」
あのときの態度が気に入らなかったアルマスは、オウネル侯爵家を使い、シーラを脅してエメリーネの側から引き離そうとしているのだろう。
むしろ、それが一度目の人生で起こったことだ。
「わたくしも社交界デビューをしたの。こうやって執務を行うこともできるわ。だから、いつまでも父に甘えるわけにはいかない。自分なりにこの国を良くしたいと思っているの」
エメリーネの静かな決意に、シーラはようやく重い口を開いた。
「先ほどのご質問にお答えします。おそらく宰相閣下は、エメリーネ様宛の贈り物を、自分のものにしようとしていたのではないかと……」
そこまでシーラが言いかけたとき、執務室の扉が不意にノックされた。
シーラがはっと身を固くし、エメリーネは瞳を鋭くする。




