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第五話 鉄壁のモブ偽装と入学の心構え

「――よし。完璧ね」


鏡の前に立つ自分を見て、

私は満足の笑みを浮かべた。


そこにいるのは、

「男爵領の愛され天使・ユーナ」ではない。


まず、私のトレードマークだった

ふわふわのピンクブロンドヘアは、


親の仇のようにきつく引っつめて

後ろで一つに結んだ。


後れ毛なんて一本たりとも許さない。

ピンでビシッと固定である。


次に、庇護欲をそそると評判だった

エメラルドグリーンのタレ目には、

度の入っていない分厚い黒縁眼鏡を装着。


さらに、透き通るような陶器の肌をした頬には

茶色のメイクペンで


ソバカスを点々と描き込み、

眉毛はあえて野暮ったく太めに整えた。


華やかさをこれでもかと殺した

「モブ令嬢・ユーナ」の完成である。


入学が決まってからいかに目立たなくするか、

研究に研究を重ねてその集大成である!


(目立たず、騒がず、空気のようになる。


これぞ前世の満員電車とオフィスで鍛えた

『気配遮断』の術よ……!)


もちろん、見た目は地味でも、

貴族としての礼儀作法は完璧に叩き込んである。


へりくだる必要はないが

ルールとマナーを遵守すれば、


高位貴族から理不尽に目をつけられるリスクは最小限に抑えられるはずだ。


「本当にユーナかい……?」


見送りの朝、私の姿を見たお父様とお母様は、あまりの激変ぶりに絶句していた。


「お父様、お母様。


私は学院へ、男爵領の益になる繋がりを作るために行くのです。


目立ってトラブルに巻き込まれるわけにはいきません」


「う、うむ……。


さすが我が娘、しっかりしているな。


だが、もし何か困ったことがあれば、

必ず手紙で相談するんだよ。

私たちが全力で対処するからね」


「はい、約束します!」


ぎゅっと両親と抱き合う。


学院は全寮制のため、これから6年間、

大好きな領地を離れなければならない。


馬車に乗り込むとき、鼻の奥ががツンと痛んだ。


思った以上に、私はこの温かい領地と

みんなのことが大好きになっていたのだ。


(待っててね、みんな。

必ず無傷で!お土産をいっぱい持って帰るから!)


寂しさを振り払うように、

私は馬車の中で、お父様から授かった


「貴族の相関図」


の資料を開いた。


我が領と関わりのある家系や、

益になりそうな勢力、

避けるべき貴族関係者などを頭に叩き込む。


勉強の成績も「中の上」をキープする計画だ。


上すぎれば目立つし、

下すぎれば補習で拘束されるから。


――そして、ついにやってきてしまった。

貴族学院。


馬車から一歩降り立つと、

そこはきらびやかな別世界だった。


大理石の校舎、高価な魔導具、

そして歩いている生徒たちのオーラが違いすぎる。


入学式に参加している間に

荷物は寮の部屋に運ばれている手筈である。


(乙女ゲームの定番なら、

初日の今日、間違いなく『攻略対象』との強制出会いイベントが発生する。


さらに、彼らを囲む

悪役令嬢系の高位貴族のご令嬢たち……。


嫌だ、絶対に近寄りたくない!!)


もし目をつけられたら、

寮生活という閉鎖空間で

6年間逃げ場がなくなるのだ。


(下位貴族の人たちって、

どうやって自分の身を守ってるんだろう?)


入学前にお父様に尋ねたときは、


「困ったら学園の先生方や、

生徒会に相談するといい」


と言われたけれど……。


(……待って。

乙女ゲームの攻略対象って、

だいたい『生徒会長』とか

『生徒会役員』に就任してるのが

テンプレじゃない!?


生徒会に駆け込むなんてそれこそ自殺行為でしょ!)


ぐるぐると脳内で最悪のシミュレーションを繰り返しているうちに、時計の鐘は容赦なく進んでいく。


式典が始まってしまう。

いまだ馬車降り場周辺から動けないでいた。


会場に移動しなければ。


すぅーーーーー

ふぅーーーーー


深呼吸をする。


(……落ち着け、私。


立場を弁え、作法を遵守し壁の花になる。

それだけを徹底すれば大丈夫だ)


覚悟を決め顔をあげた。

黒縁眼鏡のブリッジを指で押し上げる。


目的はただ一つ、男爵領のための情報収集と交流のみ。


いざ行かん!

元アラサーOLのスローライフ死守!

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