表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/6

第六話 雲の上の幹部たちと、鉄壁のカメレオン

入学式の会場である大講堂は、

天井が高く、ステンドグラスから差し込む光が床を色鮮やかに染めていた。


周囲を見渡せば、

真新しい制服に身を包んだ新入生たち。


この学園は制服である。


多少裕福になってきた我が家の財政状況、

そして特待生


とはいえ


ドレスをあまり持ち合わせない私としては

大変嬉しい。



この学園は、まさに貴族社会の縮図、

前世で言うところの「超大手企業の入社式」である。


(馴染め、私。私は景色。

私は大理石の床の一部……)


背筋をピンと伸ばし、

周囲の群衆と完全に一体化するべく、

存在感を限界まで薄めていた。


やがてファンファーレが鳴り響き、

壇上に「彼ら」が現れた。


一際きらびやかなオーラを放つ一団。


その中心にいるのが、

我が男爵領に直々の推薦状ブルドーザー

送りつけてこられた、第二王子殿下だ。


そして、その周りを固める生徒会役員たち。


おそらく、前世で夜な夜な読んでいた

小説における「攻略対象」たちなのだろう。


赤髪のワイルド系、

青髪のクール眼鏡系、

銀髪の繊細系……


とにかく、キラキラした色合いの人たちが並んでいる。


(……うん。

多分、すっごくイケメンなんだと思う)


他人事のように思うのには理由があった。


元日本人の私。

じつは西洋風・欧米系の顔立ちの美醜が、

細かいジャンルまでいまいち判別できないのだ。


前世でもハリウッド俳優を見て


「みんな彫りが深くて鼻が高くて

カッコいいけど、

誰が誰だか見分けがつかない」


と思っていたタイプである。


今や自分もその世界の住人(ピンク髪)

なのだが、


壇上の彼らが「可愛い系」なのか

「綺麗系」なのか、


そのへんのニュアンスが

さっぱり分からない。


けれど、周囲の令嬢たちが

「キャーッ!」

と黄色い悲鳴を(マナーの範囲内で淑やかに)

上げ、頬を染めているのを見る限り、


国宝級のイケメンたちであることは

間違いないようだ。


生徒会の中には、

数人の高位貴族の令嬢たちの姿もあった。


凛とした佇まいで仕事をこなす彼女たちの姿を見て、私は少しホッとする。


(失礼ながら、女性の幹部が

ちゃんと機能しているだけで、

まともな組織に見えるわね。

……いや、油断は大敵よ)


彼ら彼女らは、私より一つ上の学年の先輩。


とはいえ、この学園においては

「会社の経営幹部」相当の権力者たちだ。


実際、将来国を動かす人たち、

雲の上の方々だ。


下手に目立って目をつけられたら、

私の平穏な社畜ライフ……

もとい、モブライフが音を立てて崩壊する。


(いろんな意味で、関わったら終わり。

私はカメレオン。周囲の色に擬態するのよ!)


周りの新入生たちも、

さすがは幼い頃から一流の英才教育を受けてきた貴族の卵たちだ。


式が始まれば、私語を慎み、

完璧な姿勢で拝聴している。


素晴らしい。


この高いマナー水準に便乗させてもらおう。


私は黒縁眼鏡の奥の目を薄め、

周囲の動きと完全にシンクロして、


拍手のタイミングも、お辞儀の角度も、

ミリ単位で周囲に合わせた。




「……以上をもちまして、入学式を挙行いたします」


厳かなアナウンスが流れ、

式典の終わりが告げられた。


「ふぅ……」


お開きの合図とともに、

私は小さく息を吐き出した。


緊張のあまり

擬態することだけに全神経を注いでいた

せいで、


第二王子の挨拶の内容なんて

一文字も頭に入っていない。


気づいたら式が終わっていた。


でも、それでいい。

トラブルゼロ。

これぞ大人の処世術だ。


今日は式だけで解散となり、

明日からはクラス分けの発表や、


敷地内の施設案内、

授業についてのオリエンテーションが

始まるらしい。


その他大勢の新入生たちと退場し、

集団行動を心がけて

無事に寮の部屋に入れた。


この寮は、個室。


ご飯も食堂でテイクアウトできたので、

部屋でゆっくり食べることができた。


(よし、初日の重要ミッション

『イベントの完全回避』はクリアね。


明日からもこの調子で、

空気のように6年間を駆け抜けてみせるわ!)


自分の完璧なカメレオンっぷりに

手応えを感じつつ、

私は明日への闘志を静かに燃やすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ