第四話 計画の崩壊と逃げられない王命
12歳の春。
ロレッタ男爵領は今や、
ランタン王国内でも有数の
「芸術とスイーツの最先端エリア」として、
ちょっとしたバブルを迎えていた。
光の演出はあれから演劇や舞台、
ミュージカルへと活用の幅を広げ、
私のような光魔法だけでなく、
水魔法や火魔法、
風や雷、土魔法を取り入れて
一大芸術作品となっていった。
果物パンケーキで有名になった
我が領地特産の果物も
品種改良や、特産品をジャムやシャーベット、ジュースなど増やしていき
先駆的な産地となっていった。
私の部屋の机には、
領民の子どもたちから貰った手作りのクッキーや、
家庭教師の先生から
「今日も満点です」と太鼓判を押された
試験の答案用紙が並んでいる。
「ふふん、完璧。
私の人生、イージーモード突入ね」
前世で30年すり減らした魂は、
この3年間で完全に新品同様、
いや、それ以上にピカピカに輝いていた。
13歳になっても貴族学院には行かず、
このままこの温かい領地で、
お父様とお母様、そして大好きな領民たちと
のんびり隠居生活を送る。
…そのはずだった。
「――ユーナ。少し、大事な話があるんだ」
ある日の夕食後、お父様がいつになく真剣な、どこか緊張した面持ちで席を立とうとする私に声をかけた。
隣に座るお母様も、
心なしかそわそわしている。
「なあに、お父様?
アップルパイ、もうひとつ食べる?」
「いや、そうじゃないんだ。
……ユーナ、お前はこの領地を
愛してくれているかい?」
「もちろん! 世界で一番大好きだよ」
私の即答に、お父様は目頭を熱くしながら、
私の小さな手を包み込んだ。
「ありがとう……。
実はね、私とサーシャ(お母様)で
話し合ったんだ。
これだけ領地を豊かにし、
みんなに愛されているお前こそ、
我が男爵家の次期領主にふさわしい、と」
(……ん?)
「だからね、ユーナ。
お前が『学院には行かない』と
言っていたのは知っているが……
未来の領主となるならば、
どうしても他の貴族たちとの繋がりが
必要になるんだ。
学院で、将来ささえあってくれる友人を、
数人でもいいから作ってきてはくれないだろうか」
(ちょっと待って。
次期領主? 私が? 隠居計画は!?)
予期せぬ「出世コース」の提示に、
元アラサーOLの脳内会議が
パニックを起こす。
いや、でも、お父様の言うことは一理ある。
領地を守るためには中央や周辺のコネは
必要だ。
困ったな、どう切り抜けよう――
そう思った、まさにその時だった。
コンコン!!
と焦りがわかるノックがあり食堂のドアから
執事のセバスさんが
青い顔をして飛び込んできた。
「だ、旦那様! 大変です!
王都より王家直属の使者様が到着いたしました……!」
「な、何だって……!?」
ざわめく一同は、使者様を通した応接室に移動する。
そこには、ピシッとした礼服を着た、
いかにも「偉い人」な役人だった。
彼は恭しく一礼すると、
金色の刺繍が施された、
とんでもなく豪華な手紙を取り出した。
「ロレッタ男爵、ならびにご息女ユーナ嬢。
ランタン王国第二王子殿下、
および教育総監からの親書でございます」
(おうじ……? しんしょ……?
嫌な予感しかしないんだけど!)
冷や汗を流しながらお父様が手紙を受け取り、
目を通す。
その顔が、みるみるうちに驚愕へと
変わっていった。
「こ、これは……
『ユーナ嬢の類稀なる魔導の才と、
領地経営における経済的才覚は、
王国の宝である。
よって、来春より貴族学院へ、
王家推薦の特待生として入学することを命ずる』
……!?」
「な、なんですって……!」
お母様も淑女の仮面が剥がれ天井を仰ぐ。
役人は、私の方を向いてにっこりと微笑んだ。
「ユーナ様。貴女様が考案された
『光の演出』と『領地復興の果実パンケーキ』の噂は、
王都の王族方の耳にも届いております。
ぜひ、学院にて我が国の若き貴族たちの
刺激となっていただきたい、とのことです」
(嘘でしょ……。ただ美味しいおやつ食べて、
ぽわんぽわん光らせて遊んでただけなのに……!)
私の業績は、地味どころか、
王都のトップ層に「経済を回す天才児」として目をつけられるレベルに達していたらしい。
お父様が申し訳なさそうに、
でもどこか誇らしげに私を見る。
「ユーナ……これは、断れば不敬罪になりかねない。
それに、先ほどの領主の話もある。
……行って、くれるかい?」
断れるわけがなかった。
外堀を埋められるどころか、
王家という名のブルドーザーで一気に城壁を崩された気分だ。
(終わった……。
私の『無理しないスローライフ』が、
音を立てて崩れていく……!)
乙女ゲームの舞台である
「貴族学院」への入学が、こうして確定してしまった。
(こうなったら!
学院でも絶対に目立たないようにしてやるわ!
友達を数人作って、
授業は適当に流して、
終わったら速攻で領地に帰るのよ!)
新たな(後ろ向きな)決意を胸に、
私はついに、貴族学院への一歩を踏み出すことになる。




