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『ダンジョン少佐の兵站改革 〜最弱コアの少年を閣下と呼び、軍事知識で無敵の要塞都市を築城いたします〜』  作者: たい丸
【フェーズ1:基盤構築編】

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6/12

第6回:最初の勝利と、要塞都市への進軍

廃ダンジョンの回廊に、規律正しい軍靴の音が反響する。だがそれは、レティシアのものではない。近隣の領主が送り込んだ、鉄壁の装備を誇る正規斥候隊の歩みだ。彼らはこれまでの無鉄砲な冒険者とは違い、盾を並べて死角を消し、魔法の灯火で闇を慎重に切り裂きながら進んでいた。

「――接敵まで、カウントを開始します。閣下、演算の準備はよろしいですか?」

最深部の司令室で、レティシア・フォン・ベルシュタイン少佐は三次元地図を見据えながら、隣に座るテオに問いかけた。

「……うん。心臓がドキドキするけど、ボク、やるよ。レティシアが教えてくれた通りに……!」

テオは小さな手をコアにかざし、全神経を集中させていた。彼の視界には、レティシアの【叙勲】によって共有された、ダンジョン全域の「構造グリッド」が見えている。

「よろしい。セアラ、配置につけ」

「……影の中で、待機しています。不純物の喉元、いつでも断てます」

セアラの声は、通信魔法を通じて石壁から滲み出すように響いた。彼女の左膝は、先ほどのテオによるメンテナンスとレティシアの調整によって、かつてないほどに研ぎ澄まされている。彼女にとって、今のこの場所は教団のような「使い捨ての暗闇」ではない。守るべき「閣下」と、価値を認めてくれた「少佐」がいる、初めての戦場だった。

「作戦開始。第1段階、誘導。――閣下、第3区画のシャッターを『自然な摩耗』を装って閉鎖なさい。彼らを北の回廊へ追い込みます」

「了解! ……えいっ!」

テオが魔力を注ぐと、遠くで重厚な石の扉がゆっくりと、だが確実に閉ざされた。侵入者たちは、その閉鎖を「古びたダンジョンの崩壊」と誤認し、唯一開かれた北の回廊――すなわち、死の罠が敷き詰められたキルゾーンへと足を踏み入れた。

「獲物が罠にかかりましたね。第2段階、圧迫。セアラ、後方の退路を遮断。閣下は天井の通気口を開放し、魔力濃度の急激な変化による『酔い』を誘発させてください」

レティシアの指示は、まるでチェスの駒を動かすかのように冷徹で、かつ合理的だった。彼女の頭の中では、かつての北方軍での失敗が常にシミュレートされている。「一人の命を救うために全体を危うくした」あの日の過ち。だからこそ、今の彼女には一切の妥協がない。敵を確実に、最も低コストで無力化する。それが彼女の掲げる兵站改革の神髄だ。

「ぎゃあああ! 影だ! 影が動いた!」

回廊に悲鳴が響き渡る。影に潜むセアラは、決して敵を殺さなかった。レティシアの命令は「生かさず殺さず、リソースを最大化すること」だ。セアラの短剣は、敵の関節の腱だけを正確に断ち、盾の隙間から麻痺毒を流し込む。逃げようとする者の足元には、テオが操作する落とし穴が開き、彼らを深い絶望へと突き落とす。

「……全ユニット、制圧完了。閣下、お見事です。リソース(DP)の回収効率が、これまでの冒険者の比ではありません」


戦闘終了の報告を受け、レティシアは魔導ライフルのボルトを静かに戻した。司令室に映し出された敵兵たちは、死んではいない。だが、もはや戦う術もなく、この迷宮の「滞在時間エネルギー」を生成するための苗床と化していた。

「ボク、やったんだね……! 誰も死なないで、ボクたちの場所を守れたんだよね?」

「ええ、閣下。これが兵站による勝利です。……ですが、これはまだ第一歩に過ぎません」


レティシアは立ち上がり、ドレスの裾を翻して司令室のメインモニターに「10年ロードマップ」を投影した。

「フェーズ1『基盤構築』は今、この勝利をもって完遂されました。次はフェーズ2『ダンジョン都市化』へ移行します。我々はいつまでも、この暗い地下に閉じこもっているわけにはいきません。地上に、堂々とこの要塞の支配を誇示する『宿場町』を建設し、世界中から富と人間、そして情報を呼び込むのです」

「まちを作るの? ボクたちのダンジョンの上に?」

「左様です、閣下。冒険者、商人、観光客。彼らが自主的にこの地を訪れ、金を落とし、そして『滞在』することで生まれる魔力は、今の百倍を超える規模になるでしょう。我々は、世界で最も安全で、最も効率的な『要塞都市』を築くのです」


その言葉に、影の中から現れたセアラが、膝をついて応えた。

「レティシア様の描く地図に、狂いはありません。……私はその街の影となり、閣下の安寧を妨げるすべてを排除します」

レティシアは、モニターに映る「都市計画図」を凝視しながら、心の奥底で疼く「欠落」を静かに見つめていた。都市化が始まれば、物流、人口統計、魔力循環、そのすべての計算量は爆発的に増える。

(やはり、私一人の頭脳では限界がある……。都市を動かす巨大な歯車には、それを冷徹に回し続けるための『心臓』が必要だ)

彼女の視線は、地図の北、かつて天才と謳われながらも国家に牙を剥き、地下の賭場に身を落としたという「赤髪の数学者」の潜伏地へと向けられていた。

「閣下、セアラ。次の作戦を伝えます。……これより我が軍は、都市運営に不可欠な『最高財務責任者(CFO)』の招聘スカウトに向かいます。よろしいですね、閣下?」

「うん、レティシア! ボク、どんなに大変なことがあっても、レティシアとセアラと一緒に、素敵な街を作りたい!」

最弱の閣下は、今や迷いのない瞳で頷いた。 銀髪の少佐、最弱の閣下、そして狂信の影。三人の歩みは、薄暗い地下から、世界の理を書き換える「要塞都市」の建設へと、力強く踏み出されたのである。



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