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『ダンジョン少佐の兵站改革 〜最弱コアの少年を閣下と呼び、軍事知識で無敵の要塞都市を築城いたします〜』  作者: たい丸
【フェーズ1:基盤構築編】

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第2回:鉄の処女の残響と、最弱の「閣下」

廃ダンジョンの湿った空気の中に、乾いた銃声が響き渡った。

「ひっ、ひぃい……! あ、足が、俺の足がああぁ!」

地面を転げ回り、無様な悲鳴を上げるのは、先ほどまでレティシアに下劣な言葉を投げかけていた冒険者の男だ。もう一人の連れは、腰を抜かしたまま、レティシアが構える魔導拳銃の銃口を凝視して硬直している。その銃口からは、死の宣告を終えたばかりの細い硝煙がゆらりと立ち上っていた。

「騒がしい。戦場において、無意味な叫びは位置を露呈させるだけの自殺行為だ。次の一撃は、その騒がしい口を閉ざすために使うが、よろしいか?」

レティシア・フォン・ベルシュタイン少佐の声は、驚くほど冷静で、そして氷点下の冷たさを孕んでいた。 彼女は八頭身のモデル体型を凛と直立させ、軍服を改造したドレスの裾を翻しながら、獲物を値踏みするような視線で男たちを見下ろした。

「レ、レティシア……あの……」

背後で、ダンジョンコアの少年・テオが彼女の服を震える手で掴む。その小さな肩は、初めて見る本物の「暴力」と「軍事力」に怯えていた。

レティシアは視線だけをテオに向けた。その碧眼には、先ほどの冷徹な光とは対照的な、だがどこか強迫観念に近い「厳格な慈愛」が宿っている。

「閣下、耳を塞いでいるようにと申し上げたはずです。……これは殺戮ではありません。非効率な侵入者を、当拠点の運営に必要なダンジョンポイント(DP)へと変換する、極めて事務的な処理に過ぎません」

「でも……死んじゃうよ……?」

「閣下。……無能な優しさは、いつか身内を殺す罪悪となります。覚えなさい」

レティシアの言葉は、テオへ向けた教育であると同時に、彼女自身の魂に刻まれた呪詛でもあった。 彼女の脳裏には、今も鮮明に焼き付いている光景がある。前世、北方軍第104歩兵連隊を率いていたあの日。撤退戦の最中、彼女は瓦礫に埋まった一人の少年兵を見捨てられなかった。 『彼を救えば、中隊全体の撤退が数分遅れる』 頭の中の計算機は、見捨てろと叫んでいた。だが、当時の彼女は「指揮官の情」に負けた。その数分。それが、敵軍に包囲網を完成させる隙を与えた。

結果として、彼女以外の99名は戦死した。部下たちは血反吐を吐きながら「閣下だけは生きて、次の指揮を執ってくれ」と笑って肉壁になったのだ。自分が守ろうとした「たった一つの命」のせいで、自分を信じた「百の命」を泥に沈めた。その痛切な後悔が、彼女から「甘さ」という機能を完全に剥ぎ取った。

(二度と、間違えない。一人の命のために全体を危険に晒す無能な指揮官には、死んでも戻らない……!)

レティシアは意識を現在に戻し、震えるテオの前に跪いた。そして、少年の小さな手を、自身の手袋越しに力強く握る。

「閣下。貴公は一国の王だ。貴公が揺らげば、このダンジョンという『城』に住まう全ての命が霧散する。……私のような無能な指揮官のせいで、部下を死なせたくはないのです。分かりますか?」

「……レティシア、怒ってるの?」

「いいえ。私は、貴公を死なせないと誓っただけです。……さあ、閣下。司令官として、最初のリソース回収を命じてください。彼らをDPに変換し、拠点の防衛ラインを構築する許可を」

テオは、レティシアの碧眼の奥にある、深い孤独と絶望的なまでの責任感を感じ取った。彼はゴクリと唾を飲み込み、涙を拭って頷いた。

「……わかった。レティシア参謀、命令する。……やって!」

「了解しました、閣下マ・シアー

レティシアが指を鳴らすと、ダンジョンの権能が発動した。男たちの身体が粒子となって消え、廃ダンジョンのコアに微かな、だが確かな魔力が充填される。 だが、その数値はあまりに微々たるものだった。

「……報告します。回収したDPは極少量。当拠点の修復と、テオ閣下の生命維持だけで限界です。魔物を一体召喚する余裕すらありません」

「そんな……。やっぱりボク、ダメなコアなのかな。前の主様にも、そう言われて捨てられたんだ……」

テオがまたうつむき、泣きそうになる。前の主である邪悪な魔術師に、魔物も出せない「虚無のコア」と罵倒され続けた記憶が、彼の自己肯定感を削り取っていた。

レティシアはその幼い頬を両手で挟み、無理やり顔を上げさせた。

「閣下、失言です。資質がないなら、私が叩き込んでやると申し上げたはず。リソースが足りないなら、効率で補えばよろしい。……幸い、先ほどの不純物が残していった装備品があります」

彼女は落ちていた錆びた短剣と、わずかな保存食を手に取った。

「これより、第1フェーズ『生存圏の確保』を開始します。閣下、よろしいですね?」

「う、うん……。何をすればいいの?」

「まずは、敵を『殺さず、帰さず、有効活用する』ためのトラップを仕掛けます。死体から得られるDPよりも、恐怖し、彷徨う冒険者から滲み出る魔力の方が、長期的には高利回りです。……閣下、この図面の通りに魔力を通してください」

レティシアが指差し、テオが必死に魔力を練り上げる。 まだ誰も知らない。この時、最弱の少年と冷徹な少佐が描いた稚拙な図面が、後に世界を震撼させる「無敵の要塞都市」の設計図になることを。

「……完成です。さあ、閣下。私たちの城の、初めての『改革』です。少しだけ、楽しみですね?」

「……うん、レティシア! ボク、頑張るよ!」

テオの顔に、初めて微かな希望の笑みが浮かぶ。レティシアはその表情を、かつて失った少年兵の面影と重ね、一瞬だけ目を細めた。だが、すぐにその感情を鉄の仮面の下に隠し、次の作戦立案へと意識を向けた。

(感情を排し、数値で勝つ。それが閣下への、私の忠誠の証です)

こうして、たった二人だけの孤独な軍隊による、異世界の兵站改革が本格的に始動したのである。


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