第5話:選択の代償
「な、なにこれ……」
エミリアの声が震える。
目の前には、武装した男たち。明らかにただの盗賊ではない、統制の取れた動き。
「いたぞ!二人ともだ!」
一人が声を上げると、周囲の気配が一気にこちらへ集まる。
(予想より少し多いわね)
私は軽く目を細めた。
けれど――問題はない。
「リリアーナ……これ……」
エミリアが、すがるようにこちらを見る。
その瞳には、はっきりとした恐怖が浮かんでいた。
さっきまでの余裕は、もうどこにもない。
「助けて……」
小さく、そう呟く。
(あら)
私は少しだけ考える素振りを見せた。
「どうして?」
「え……?」
「あなた、ヒロインなのでしょう?」
静かに問いかける。
「だったら、こういう場面は“自分で乗り越えるイベント”じゃないのかしら?」
エミリアの顔が強張る。
「そ、そんなの……知らない……こんなの、ゲームになかった……!」
「そう」
私はあっさりと頷いた。
「じゃあ、あなたの知らない展開ね」
その間にも、男たちはじりじりと距離を詰めてくる。
逃げ場はない。
「くそっ、囲め!」
号令と同時に、数人が一気に踏み込んできた。
「きゃっ……!」
エミリアが悲鳴を上げる。
私はその様子を、一歩引いた位置から見ていた。
(さて)
ここでどう動くか。
それが“選択”というもの。
「――っ!」
エミリアは咄嗟に後ろへ下がるが、足元の根に引っかかり、そのまま体勢を崩した。
「やば……」
その瞬間、男の一人が剣を振り上げる。
「もらった!」
振り下ろされる刃。
エミリアは目を見開いたまま、動けない。
(ああ)
私は、小さく息を吐いた。
(それが、あなたの選択なのね)
次の瞬間。
――キィン、と乾いた音が響いた。
「……え?」
エミリアの目の前で、剣が止まっていた。
正確には――
“弾かれていた”。
男が驚いたように後ずさる。
「な、なんだ……?」
その視線の先。
エミリアの前に、ひとりの男が立っていた。
「間に合ったか」
低く、落ち着いた声。
見覚えのないはずのその人物を見て、私はわずかに目を細める。
(いいタイミングね)
長身の青年。簡素な装いながら、その立ち姿には隙がない。
彼は軽く剣を振り、男たちを牽制した。
「下がれ。命が惜しければな」
空気が変わる。
明らかに、力量が違う。
「ちっ……!」
男たちは舌打ちしながらも、距離を取った。
完全に形勢が逆転する。
エミリアは、その場に座り込んだまま呆然としていた。
「……た、助かった……?」
震える声。
青年は振り返り、彼女を一瞥する。
「怪我はないか」
「あ……う、うん……」
エミリアは、まだ状況を理解しきれていない様子だった。
そのやり取りを、私は少し離れた場所から見ていた。
そして――
小さく、笑う。
(やっぱり)
予定通り。
「リリアーナ……これって……」
エミリアが、恐る恐るこちらを見る。
その視線に対して、私はただ静かに答えた。
「選択の結果よ」
「え……?」
「あなたは、何も選ばなかった」
だから。
「誰かに“選ばれる側”になったの」
エミリアの顔が、ゆっくりと青ざめていく。
私はその様子を見つめながら、ふと視線を青年へと向けた。
彼は一瞬だけ、こちらを見た。
そして。
わずかに――頷いた。
(ええ、そう)
私は心の中で応じる。
(ここまでは、全部予定通り)
再びエミリアへ視線を戻す。
「ねえ、エミリア」
静かに名前を呼ぶ。
びくり、と肩が震えた。
「“助かった”って、本当に思っているの?」
その一言に。
彼女の表情が、凍りついた。




