番外編:失われた結末(後編)
風が、止んでいた。
静かすぎるほどに。
王都は――
崩れていた。
「……どうして」
誰かの声が、遠くで聞こえる。
だが、その声もすぐに消えた。
瓦礫。
煙。
そして――沈黙。
かつて賑わっていた街は、もうどこにもない。
「……こんな、はずじゃ」
リリアーナは、その場に立ち尽くしていた。
濡れた靴。
泥に沈む足。
それでも、動けない。
(止められなかった)
分かっていたはずなのに。
兆しはあった。
違和感もあった。
それでも――
(間に合わなかった)
「リリアーナ様!」
かすれた声が、背後から響く。
振り返る。
そこにいたのは、数少ない生き残りの騎士。
その顔には、絶望が刻まれていた。
「神殿が……!」
息を切らしながら、叫ぶ。
「完全に暴走しています!」
「……っ」
リリアーナの表情が、固まる。
(やっぱり)
最悪の形で、来た。
神殿。
その中心である“聖女”。
本来であれば、国を支える存在。
だが――
「……制御、できていない」
そう。
あの力は、不完全だった。
本来の条件を満たしていない。
それでも、無理やり使われ続けた結果――
「崩壊したのね……」
小さく、呟く。
すべてが。
限界を超えて。
「王太子殿下は!?」
騎士が叫ぶ。
その問いに、リリアーナはわずかに視線を逸らした。
「……すでに」
それだけで、十分だった。
「そんな……」
騎士の顔が、青ざめる。
遠くで、光が爆ぜる。
黒く歪んだ光。
それは、もはや“聖なるもの”ではなかった。
「……あれが」
リリアーナは、目を細める。
「成れの果て」
かつての“聖女”。
その末路。
「止めないと……!」
騎士が、一歩踏み出す。
だが――
「無理よ」
リリアーナは、静かに言った。
「もう、止まらない」
その声には、確信があった。
「でも、このままじゃ――」
「ええ」
頷く。
「全部、終わるわ」
その一言で。
騎士は、言葉を失った。
沈黙。
崩れゆく世界の中で。
二人だけが、立っている。
「……どうすれば」
かすれる声。
「どうすればよかったんですか」
その問いは、あまりにも遅かった。
「……簡単よ」
リリアーナは、静かに答える。
「最初から、正しく選べばよかった」
それだけの話。
それだけで、防げた。
「……そんな」
騎士は、崩れ落ちる。
「そんなことで……」
「ええ」
リリアーナは、空を見上げる。
黒く染まった空。
「すべてが決まるの」
(あの時)
思い出す。
婚約破棄の場。
あの選択。
あの判断。
(もし、違っていれば)
こんな未来には、ならなかった。
「……遅すぎる」
ぽつりと、呟く。
何もかもが。
すべてが。
「……終わりね」
その言葉は、静かだった。
だが――
すべてを受け入れていた。
轟音。
光が、爆ぜる。
世界が、崩れる。
その中心で――
リリアーナは、目を閉じた。
(……もう一度)
心の奥で、願う。
(やり直せるなら)
強く、強く。
(今度は――)
その瞬間。
すべてが、消えた。
◇
そして。
目を開けた時。
そこは――
始まりの場所だった。
「……なるほど」
小さく、呟く。
状況を、理解する。
すぐに。
(やり直せる)
その事実が、すべてを変えた。
「……なら」
ゆっくりと、立ち上がる。
その瞳には、もう迷いはない。
「今度は、間違えない」
あの結末には、しない。
誰にも。
何にも。
邪魔はさせない。
「すべては」
静かに、呟く。
「ここから始まる」
それが――
本当の意味での“物語の始まり”だった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
本編・番外編を楽しんでいただけた方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです✨




