番外編:失われた結末(前編)
雨が、降っていた。
冷たい雨が、容赦なく地面を打ち続ける。
王城の中庭。
その中央に、リリアーナは立っていた。
「……これで、決まりだな」
冷たい声。
目の前にいるのは、王太子。
その隣には――
エミリア。
「……はい」
小さく頷く。
その声は、驚くほど静かだった。
周囲には、多くの視線。
貴族、騎士、神官。
すべてが、彼女を見ている。
だが――
そのどれもが、味方ではない。
「リリアーナ・フォン・アルセリア」
王太子が、ゆっくりと告げる。
「お前との婚約は、ここで破棄する」
その言葉が、雨音に混じって響く。
ざわめきが広がる。
けれど。
誰も止めない。
止めようともしない。
「……承知いたしました」
リリアーナは、深く頭を下げた。
その姿に。
一瞬だけ、場が静まる。
「……随分と、あっさりだな」
王太子が、わずかに眉をひそめる。
「取り乱すかと思ったが」
「……その必要がありませんので」
静かな返答。
だが、その意味を理解する者はいない。
「それだけではない」
神官の声が響く。
「お前には、聖女の力に関する重大な疑いがある」
「……疑い、ですか」
「そうだ」
厳しい視線。
「本来、聖女であるべきは――」
隣に立つ少女を見る。
「エミリア様だ」
ざわめきが、再び広がる。
「……っ」
リリアーナは、小さく息を呑む。
(やっぱり……)
分かっていた。
この流れ。
この結末。
すべてが。
(ここから、崩れる)
「……違います」
それでも、言葉を紡ぐ。
「力の発現には、条件が――」
「言い訳は不要だ」
即座に遮られる。
「すでに証拠は揃っている」
冷たい宣告。
「お前は、偽りの力で地位を得た」
「……」
否定できない。
説明する時間も、与えられない。
「……以上だ」
王太子が、告げる。
「リリアーナ、お前は――」
一拍。
そして。
「追放する」
その言葉が、決定打となった。
雨が、強くなる。
視界が、滲む。
だが。
それが雨なのか、涙なのか。
もう、分からなかった。
「……かしこまりました」
それでも、言葉を返す。
それが、最後の矜持だった。
誰も、助けない。
誰も、手を差し伸べない。
ただ。
見ているだけ。
(……終わった)
心の中で、そう呟く。
すべてが。
ここで、終わる。
◇
城門の外。
雨は、やまない。
振り返る。
そこにあるのは、かつての居場所。
だが――
もう、戻れない。
「……これが、結末」
小さく、呟く。
その時だった。
ドクン、と。
胸の奥で、何かが脈打った。
「……え?」
視界が、歪む。
意識が、遠のく。
(……まだ、終わりたくない)
強く、思う。
(こんな終わり方――)
その瞬間。
世界が、暗転した。
◇
気がつくと。
そこは――
見慣れた天井だった。
「……ここは」
ゆっくりと、体を起こす。
部屋。
見覚えのある家具。
鏡に映る、自分の姿。
(……戻ってる)
理解する。
すぐに。
(やり直せる……?)
心臓が、大きく鳴る。
「……そう」
ゆっくりと、息を吐く。
そして。
わずかに、口元が歪んだ。
「なら――」
その瞳に、光が宿る。
「次は、間違えない」
――これが。
すべての始まりだった。
――――――――――
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