番外編:影にいた男
王城の屋根の上。
夜風が、静かに吹き抜けていた。
「……終わった、か」
男は、ぽつりと呟いた。
誰もいないはずの場所。
だが、その視線は――
ずっと、あの女を追っていた。
リリアーナ・フォン・アルセリア。
「……本当に、やりきったな」
小さく、息を吐く。
信じられない。
いや――
信じたくなかった。
だが。
(あいつは、やった)
一度、崩壊した未来を。
完全に、塗り替えた。
「……最初は、ただの監視だった」
壁にもたれながら、空を見上げる。
「王太子の婚約者」
それ以上でも、それ以下でもない。
だから。
あの時も――
「見てるだけだった」
思い出す。
断罪の場。
崩れていく少女。
誰も助けない。
助けられない。
(……あの時、俺は)
何も、しなかった。
ただの“観察者”として。
すべてを見届けた。
その結果。
国は、崩壊した。
「……笑えないよな」
自嘲気味に呟く。
あの選択。
あの判断。
そのすべてが――
間違っていた。
(だから、今度は)
視線を落とす。
拳を、わずかに握る。
「見てるだけは、やめた」
「最初に違和感を覚えたのは」
小さく、思い返す。
「婚約破棄の場だった」
普通じゃない。
あの冷静さ。
あの目。
(あいつは、知ってた)
何かを。
確実に。
「……だから、確かめた」
近づいた。
探った。
試した。
その結果。
「……未来、か」
小さく、息を吐く。
「そりゃ、反則だろ」
苦笑する。
だが。
納得もしていた。
(あれなら、全部説明がつく)
あの先読み。
あの誘導。
あの完璧さ。
「……勝てるわけがない」
誰も。
何も。
あいつには。
「……それでも」
少しだけ、視線を細める。
「全部が計算ってわけじゃない」
あの最後の言葉。
“もう一度、失わないこと”
(あれは、本音だ)
だからこそ――
「……協力した」
利用されてるのは分かっていた。
駒だってことも。
それでも。
(あいつなら)
そう思った。
「……で」
軽く首を回す。
「これから、どうすんだ」
誰に向けたわけでもない問い。
だが。
答えは、決まっている。
「決まってるか」
小さく笑う。
「最後まで、付き合うさ」
夜空を見上げる。
星が、静かに瞬いている。
「……今度は、間違えない」
その言葉は。
誰にも届かない。
だが――
確かに、そこにあった。
そして。
男は、闇の中へと消える。
もう、ただの観察者ではない。
“選んだ側の人間”として。
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