登山部
「にっひひ~、相変わらずラブラブだねぇ♪」
「…からかわないで下さいよ紅葉さん」
十三時頃
紅葉さんと呼ばれた黒髪でツインテールをした二十代前半くらいの女性、赤西 紅葉〈あかにし もみじ〉。恋人の唯希さんと共にキャンプ場に来ていた
「君たち!今日はキャンプじゃなくて、この先にある山を登るのだよ」
「…あの、やっぱり大変そうだしキャンプにしませんか」
「なに行く前から弱音を吐いちゃってるの彼氏くん!」
「だって別に高い山登るわけでもないし…それに整備もされてないって聞いてたし不安になっちゃって…」
先日に紅葉さんから言われた事を思い出し、足取りが重くなった
「愛人が明日になれば帰るから、今日までしかここに居ないんですよ!思い出作らなくていいんですか!」
「はっ…愛人?」
隣にいるギロリと四白眼のパチクリお目目が更に見開いてこっちを見た
「いやいやいや、紅葉さん冗談やめて下さいよ」
「…あれだけ私と沢山過ごしてきたのに?」
「かなたさん?」
俺の彼女さんの圧がヤバい
「ずっと唯希さんと過ごしてるからそんな暇無かったじゃないですか」
「ん…確かにそうですよね」
唯希さんは納得して胸を撫で下ろした
「バレてしまったかぁ」
「あまり冗談言わないでください」
唯希さんから釘を刺した
「こほん…じゃあこれから登山する訳だけど、分からないこととかある?」
「…まず目的地はどこにあるんですか?」
「前見た時と同じとこ」
「そこがわからないのですが…!」
「まぁ細かい事はいいじゃん。それに、そんな遠くもないから辛くないと思うけど」
そう言うけど、紅葉さんの言葉は信用できないでいる俺…唯希さんもジト目になってるし
「…行けば自分の中の何かが変わると思うよ」
「………」
未だ不安だらけで乗り気じゃないけど、渋々ついて行った
「ごめんなさい、手が汗で汚れちゃって…」
「別に嫌じゃないさ…唯希さんの汗だし」
「…へ、変態」
「………」
私は空気を読み、黙って手を繋いでいるふたりを見ていた
「こっちこそ、汗でベトベトになっちゃってごめんね」
「わ、私も…嫌じゃ、ないですから」
どっちもどっちだ!と心の中でツッコミを入れる
「汗、混じり合っちゃってるね」
え、なに?ゆきちゃんってそんなエロい事言っちゃうの?
「う、うん…」
照れながら頷くかなたくん
まさかふたりがこんなバカップルだとは思わなかった…しかし初々しさも感じるこのDCJCカップルは興味深い
「…好きだよ、唯希さん」
「そ、そんな…もみじさんに聞こえますよ」
「小声だから大丈夫だよ」
バッチリ聞こえてるんだよなぁ
クチュクチュクチュ…ふたりは汗ばんだ手同士でクチュる
「あっ…!あっ…!———」
あ…?あ…?何やってんのこんなとこで
烈風拳でも食らわせたい
「………」
無言でずっとクチュらせてる…
「い…イっちゃいます!———」
「いや待てーい、ふたりとも!!」
「———ファッ!?…なんですか紅葉さん」
我慢ならなかった私は、ふたりにレフェリーストップをかけた
「三人はどういう集まりなんだっけ?」
そしてゆきちゃんはようやく正気に戻り
「…そりゃ登山…です」
「当たり前だよなぁ?」
「それじゃその手〇ックス禁止ね」
「「すみませんでした」」
手〇ックスを禁止しても、まだいちゃつくふたり。いいんだけどねいちゃつくだけなら…
「かなたさん、今度また街に行ってデートしましょう…遊園地行ったり水族館行ったり———」
ほんと、ゆきちゃん普段とギャップがありすぎる
かなたくんは相変わらず落ち着いてるなぁって思うけど、少し砕けていて他には見せない顔を向けている
…恋人っていいなぁ
「———もみじさん…?」
「あ、なにかなゆきちゃん」
「…本当にここを歩いていくのですか?」
岩だらけの急斜面の箇所が多々あるとこに来て、ゆきちゃんは不安がっていた
「ここを登りきればあと少し歩いて到着だからね」
「頑張ります」
そう意気込んだゆきちゃんは、かなたくんの手を離す
「じゃあ、頑張ってついてきてね」
「はい…行こう、かなたさん」
「うん、頑張ろう」
険しいながらも登りきり、やっと緩やかな斜面になってひと息ついた
「ふぅ…ふたりとも大丈夫だった?」
「あぁはい…なんとか…」
「大丈夫…ですよ」
「もうちょいで着くからね。ゆっくり歩こう」
更に歩くこと数分…木々を抜け、やがて目の前にさっきよりも急斜面が続いてる地帯に来た
「えぇ…ここ登るのは流石にキツいですよ」
「…何を言ってるんだい、かなたくん」
「私も、これ以上は登れませんからね」
「ほーらふたりとも後ろ向いて!回れ~右!」
「なんで…———!」
言われた通り後ろを振り返ったかなたくん。それに続くように後ろを振り返るゆきちゃん
「…なるほど、ここが目的地だったのですね」
「そういうこと!」
そう言って私も後ろに振り返った
あぁ…やっぱりあの頃のままだ
街も見えないし建物すら見えない
あるのは山、山、山
高い山もあれば低い山もある
それぞれ色んな形をしてて
ウミウシのような形をしていたり
猫の顔のような形をしていたり…
上を見上げると空色がいっぱいに広がっている
旅館から見上げた空の色よりも
深く、濃い空色
この景色を私はもう一度見れた
「———私はさ、高校二年生の時に腕を怪我しちゃって…それで本気で夢中になってたやってたテニスも止むを得ずってね」
ふたりは黙って私の話を聞いていた
「母が昔、今あなた達がいる旅館で働いてた事があってね…その縁で怪我をした後、気分転換にって母と一緒に旅館に泊まりに来たんだ」
「その縁が無ければ、中々来れないですよね…」
「あはは、山奥だしね」
「不便も多いですけど…結果いいとこですよね」
軽くディスってるのかなゆきちゃん?
「まぁまぁ…それで一緒に来たお母さんと喧嘩しちゃって、むしゃくしゃしてここまで来たの」
「むしゃくしゃって結構な山道でしたけど…さすが元運動部」
「そんでこの景色見て…あぁ、何も無いのになんてこんな綺麗なんだ!ってこの景色を脳みそに焼き付けたの」
「それでも、また見に来たいと短期で旅館のバイト始めた…ってわけですね」
「そそ!…やっぱり綺麗だなぁ、前見た時より綺麗」
また脳みそに焼き付けるように数十分は見渡した…
———その間かなたくん達はキスしてたようなエッチしてたような




