ふたつの尻尾
「今度はなんのゲームしてるんですか?」
宿泊し始めて四日目の午前十時
俺は自称ゲームコーナーのパソコンデスクの前に座っていた
「罪の歯車の新作だよ」
「まるでアニメみたいですね」
そう、新作はアニメみたいな3Dグラフィックを採用していて見る側でも迫力も相まって楽しめる作品だ
「…ただコンボが甘いから、こうしてトレモに引きこもってるんだ」
「コンボ?トレモ…?」
言ってる意味がよくわかっていなかったのか、首を傾げる唯希さん
「言わば練習だよ」
「あ、なるほど…」
そう言って近くにあったもうひとつの椅子を持ってきて、俺の横に座った
…甘くていい匂いがする
少しドキドキを感じつつコンボ練に勤しむ
「…Dループが安定しないなぁ」
「このジャンプ攻撃を四回当てるとこですか?」
「うん、ジャンプ初めと終わりに攻撃を当てるのを二セットするやつが中々出来なくてね」
「そうですか…」
「唯希さんもやってみる?」
「…難しそうだけどやってみます」
キャラクター選択画面に戻し、ゲームパッドを唯希さんに渡す。キャラ選びに少し時間がかかりやがて選んだ
「この子は初心者から使えて強いけど、結構テクニックいるよ」
「…要練習ってことですね」
今日一日中ずっと唯希さんのコーチングをした
イルカサーン、イルカサーン
「———まさかここまで強くなるなんてね」
「ふふ、三連勝です」
「くそっ、もっかいやろうぜ」
悔しい気持ちが俺のハートに火を付けた———
「悔しいですか?…ふふ、悔しいですかー…?」
「………」
十連敗してしまった…
煽りに煽ってくるけど、全く嫌に思わない。寧ろ負けた悔しさが無くなり、癒され尽くされた
「じゃあ、ご褒美に食事処で何かひとつ奢ってあげるよ」
「あ、では天ぷらうどんセットお願いしてもいいですか?」
お互い席を立ち、食事処へ向かう
ゲームに夢中になっていた為いつもより昼食が遅くなり、気付けば十三時を回り食事処の席に着いていた
「ご、ごめん、こんな時間になってしまって」
「いえ、楽しかったから問題ないですよ」
「そっか…なら良かった」
メニュー表を眺めて
「天ぷらうどんセットでいいの?」
「…あ、はい。お願いします」
呼び出しベルを鳴らし、そこに黒髪でツインテールをした二十代前半の店員が駆け付けてきた
「注文をお伺いしまーす」
「天ぷらうどんセットを二つお願いします」
「…天ぷらうどんセット二つですね。少々お待ち下さいませ」
受付をした店員は厨房の中へと消えていった
「年上の人ですけど可愛い店員さんですね」
「そうだね…」
「…山奥にある旅館なのに、通うだけでも大変そうです」
そういえばそう
山奥という事もありこの旅館の周りには家のひとつも建っていなそうなのに、いると言う事はわざわざ遠くから通っていると言う事だ
「もしくはここの旅館に住んでいたりするんでしょうか」
「その可能性はあるかもね」
「…私とあの店員さん、どっちが可愛いですか?」
「………」
いきなりそういう質問をされて困ってしまう
それは唯希さんだって言いたいけど、とても口にしにくい…そうして黙っていると唯希さんは困り顔で
「———すみません、変な質問をしてしまって…その、言いにくいですよね」
「…俺は唯希さんだと思うけど」
「………」
「………」
お互い黙ってしまった…
「———お待たせしました、天ぷらうどんセット二つお持ちしましたー」
ツインテールの店員さんが天ぷらうどんセットを器用に二つ持ってきて、それらを俺たちの目の前に並べられていく
「いただきます」
「ぁ…い、いただきます」
唯希さんはやっぱり初めて見る人だと緊張しちゃうんだなーなんて思った




