第四面会室にて
軽い振動と共に身体が下に押さえつけられるような錯覚に襲われる。
同時にチンッ、と、ベルの音。
「第四面会室でございます」
扉が開かれた先に広がるのは黒と灰色のチェック模様が壁にも天井にも広がる通路と、等間隔に壁に埋め込まれたランタン。
それと、奥の方に見える小さな小部屋だ。
「これを」
「ああ」
渡されたのは黒い腕輪、エインがこれから会う相手に渡した物と同様の物である。
《アヴァロン》に入る者はこれの着用を義務づけられている。
「行くぞ」
「は、はい」
それを付けながら歩き出して、四歩目でふと、気づく。
やけに手錠の抵抗が重たい。
そして、その感覚は間違いでは無かったようで、引っ張られたオーキスが背中にぶつかってきた。
「大丈夫か?」
「す、すいません!」
「いや、そんなに気にしてはいねえんだが、どうかしたか?」
手錠といえど、流石に通常の物より鎖は長く作られている。それに、エイン自身別段歩くのも、歩き出すのも速くはない。
だというのに、彼女が引っ張られたということは彼女自身に何かある。
「いえ・・・何もありません」
「・・・そか、ならいい」
答えて再び歩き出す。
今度は全くエインと同じ歩調で歩き出した彼女の事を横目で確認するが、相変わらず顔色は良くない。
とはいえ、無理に吐かせるのも不可能ならば、これ以上は聞かない方が正解だ。
人に話す気があるなら、最初の問いで答える。話す気が無いなら、絶対に何も言わない。ここで、「実は」なんて語り出すようならそれはただのかまってちゃんに成り下がる。
そして、オーキスはそういう無駄を嫌う少女だ。
その後は無言で進み、小部屋の中に入る。
そこには小さな椅子が三つとランタン、それに部屋を二つに仕切るようにガラスの壁があった。
ガラスの四隅には妙な文字が刻まれており、それぞれに違う効力が存在する。
「久し振りだな、カナン」
「ん、久し振り」
上着を椅子に掛けつつ、その椅子を引きながら言う。
答えた相手はガラスの向こう、座って待っているフルフェイスだ。
「なんでフルフェイスのまま?」
「知らない。貴方が便宜をしてくれたのでは?」
「あー、知らん。ま、いいや。てか、今日来たのはそんなこと聞く為じゃねえ」
「そう、何か聞くのは良いけど私からも質問して良い?」
「物によるな、答えられん物もある」
「じゃあ質問、その女の子は前に話してた子?」
「・・・ノーコメントだ」
「成る程、恥ずかしい事じゃ無いよ。確かにこんな子の事を気にしてたら武器なんて忘れても仕方ない。貴方の予測年齢からするとロリコンみたいだけど」
「ノーコメントって言ってんだろうが。てか、色々と失礼だなテメエ」
どうにも罪人と話している雰囲気にならないのはお互いの軽い会話故か。
「ったく、一応お前さん捕まってんだが?」
「貴方の人柄から判断している。別に気にしないと思った」
「それを本人の目の前でいうのか・・・ま、良いけど。じゃ、今度はこっちから、なんの目的でここに?」
「・・・貴方、心の余裕が無いって言われない?眉間にしわ寄ってるよ?」
「黙っとけ、生まれつきだ馬鹿やろー。てか、なに答えたくないの?」
「別に、もうちょっとお喋りしたかっただけ。それで、目的だっけ?」
「ああ、どうしてここに来たのか。それとどうやってここに来たのかも教えてくれると嬉しい」
「そうだね、まずどうやってここに来たかは内緒。どうしてここに来たのかは、人探し」
「ここが何処かを知った上でか?」
「うん、ちゃんと全部分かってる。その上で私が探しに来たのは・・・アレフディア・マーキュリアル」
瞬間、部屋の空気が張り詰める。
そして、それの原因は。
「たい・・・ちょう?」
無言だった、抑え込まれた魔力も水面のように静かだった、その身体の筋繊維一筋にすら力も入れてなかった。
だが、それ以外の何か。
漠然とした、殺気や闘気にも類ずる目には見えない何かをエインは周囲に放ったのだ。
「はあ・・・」
だが、それは一瞬。ともすれば、勘違いとも取れる程の刹那でエインが吐き出した溜息により空気が弛緩する。
「アレフディア・マーキュリアル・・・少尉、知っているか?」
「知らない人の方が珍しいでしょう。国崩しの英雄、かつてオニキアの前身となった国、オルヴィアをただの一人で崩したと言われる」
「そう、だが、同時に稀代の大罪人としても有名だ。人ならざる者の為の術式を生み出した事が原因でな・・・ま、んな事はどうでもいい。今の問題は、どうしてそんな人物を探しに来たのかって事だ」
一度は緩んだ空気がジワリと、凍てついていく。視線だけで射殺すなどとは比喩表現としてよく使われるが、エイン程の実力者がそれをやれば気の弱い者は自らその心臓を止める。
だが、生憎と彼女もまたエインと同等の実力者であった。
「これ以上はノーコメント。どうせ、時期が来れば分かるから」
「・・・そうかよ。帰るぞ少尉」
「え、あ、隊長!」
椅子にかけておいた上着を羽織って立ち去るエインにオーキスも急いで付いていく。
だが、立ち去る前にしっかりと頭を下げる辺り、彼女の礼儀正しさが伺える。
「少尉殿、で合ってる?」
「はい?」
オーキスが振り返れば、彼女に繋がれているエインも止まらざるを得ない。
オーキスと共にめんどくさそうに振り返る。
「二人は交際を?」
瞬間、オーキスの頭の中をあらゆる言葉が駆け巡る。
コウサイ、こうさい、光彩、公債、交際。
前の文に繋がるのは一つしかない。
「ち、違います!なんでそうなるんですか!」
「貴方達、そんな風に手錠をしてるから、てっきりそういうプレイなのかと」
「これは、その、緊急事態だったんです!」
「そう?お似合いだと思うけど?」
「あり得ません!」
そう言い切って、背後のエインが。
「うっそー、傷つくなあ」
「え、ああ、別に隊長だからとかじゃなくてですね。そもそも知り合って日が浅い訳ですし」
「じゃあ、月日が経ったら?」
「それでも無いです!」
「え?」
「ああっと、別にそういう訳じゃ」
あちらを立てればこちらが立たず。
しばらくしてオーキスはようやくからかわれていると気づくが。
「というか!カナンさんも隊長も、悪ノリしないで下さい!私なんかからかって楽しいですか!?」
「「大分」」
「本当にこの手錠外しますよ!?」
先日戦ったとは思えぬ程に息の整った二人に頭を抱える事になった。




