第三小隊と牢獄
「アッハッハ!まじっすか!隊長、いつかやるとは思ってましたけど、ついに!」
「おいおい、レオン笑いす・・・くく、やっぱ駄目だわ。面白すぎるわ」
「隊長!捕まっても毎日面会に行くからね!」
「うるせえよ。てか、何もしてねえよ」
オニキア軍本部局、その内部にある部屋の一つ。エインの率いる第三小隊に与えられた大部屋の中には、第三小隊のメンバー全員が集合していた。
副官と隊長が手錠によって繋がれているという異常な状況ではあったが。
「いやいや、副官紹介するって言ってその副官に手錠つけられながら来るのはヤバすぎますって」
男にしては長めのブロンドの癖っ毛を跳ねさせた小柄な少年、レオン・エスティア。
パッチリとした眼は炎のように紅く、育ちの良さそうな顔立ちだが、頰に付けられた傷が彼をやんちゃに見せる。
「隊長の顔は普通に見たらインテリヤクザにしか見えねえもんな」
褐色の肌に逆立った焦げ茶色の髪、何時ぞやの時代劇を真似て伸ばされた襟足が揺れる。
ティガ・フレーガー、この中で唯一隊長であるエインよりも高い階級を持っている上位士官である。
「二人はレオンと、ティガ、そしてこいつが」
「イェース!私がこの隊の紅一点!ハイル・フィルレインだよ!宜しくね、オーキスちゃん!」
バッチーン、と。Vサインを決めてみせたハイル。青みがかった白髪を腰まで伸ばし、はためくのは、小柄な身長に見合わない成人男性用の軍服。
どう見ても十代前半にしか見えない童顔の少女に、思わず。
「えーと、ハイルさんって何歳なんですか?」
「十二歳!」
「アホ、つい先日、みんなでバースデーパーティーやったばっかだろ」
「じゃあ、十三歳だ!」
「じゅうさっ・・・まだ学生じゃないんですか?」
絶句するオーキス。
ちなみにオニキア士官学校の通常卒業年齢は十八歳である。
「こいつはそもそも学校に行ってねえ。なんか、森でサバイバル生活してたのを俺が拾った」
「拾われた!」
「え、隊長・・・それは本当に犯罪なのでは・・・」
「分かるぞー、今お前が本気でドン引きしたのが伝わってきたぞー。まあ、説明はいつかおいおいとな。今日ここに来たのはあくまでも隊への顔見せだ。本当の用事は別にある」
「・・・そうですね」
納得出来ないと言った表情ながらも、手錠で繋がれているためエインの動きに合わせる他ない。
チャラリと音を鳴らした手錠に再び、レオンとティガが大爆笑した所でオーキスとエインはどうしてこうなったのかを思い出す。
☆
「手錠?」
「そんな陳腐なものじゃないよ」
取り出したどう見ても手錠なそれを指差しながら言うが、レナがそれを一瞬で否定する。
「これは運命の腕輪という。というか、私がそう名付けた」
「運命の腕輪?」
「そう。これは付けた二人の命を繋いで一つの命として扱う強力な呪具だ」
「はあ」
言われても、どうにも理解の浅そうなエインを見てレナはため息とも、ただ息を吐き出しただけともつかない小さな息を吐く。
「簡単に言うと、この手・・・腕輪をつければ」
「おい、いま手錠って言いかけたろ」
「・・・二人の命を共有出来る。例えば、傷だらけで動けもしない身体の君がオーキスと一緒に彼女の健康な身体を共有したりね」
ツッコミは聞かない事にしたらしい。
というか、引っ込みがつかないだけのような気もするが、エインはこれ以上は言わない事にした。
「・・・成る程。そういう事ね」
「そういう事だ。まあ、あくまでも少尉の許可があってこそって話だけどね」
「・・・デメリットとかって、あります?」
不安そうなオーキス。
当然だね、と前置きしてから、
「けど、安心したまえ。デメリットは殆ど無い。唯一、その腕輪をしている間に片方が死んでしまうと、もう片方も死んでしまうというデメリットがあるが、そんな片方だけが死ぬ状況なんて滅多にあるものじゃない」
死ぬ時は二人とも一緒だろうさ、と冗談か本気か分からない口調でレナは言った。
☆
「デメリット、他にも有りましたね・・・」
「そうだな。俺の社会的立場とかな」
冗談か、本気か区別のつかない、八割方本気で顔をしかめたエインにオーキスが乾いた笑みを浮かべる。
二人はあいも変わらず運命の腕輪、もとい手錠をつけたまま軍の内部を歩いていた。
敷き詰められた大理石の上、赤い絨毯のしかれた道に、その両脇を固める精緻な彫刻の掘られた窓枠と、白亜の壁面。
時折見える調度品の数々は全て、オニキア軍が他国から奪い取った物ばかりで、金で買ったような物や、献上品はほとんどない。
「そういえば、今日は兵装を持ってるんですね?」
オーキスがエインの腰に吊るされた魔力兵装を見て言う。
「昨晩、普通に怒られたわ。俺の部屋からこいつが直送されてきた」
少しだけ剣を抜いて見せる。
《リベレイン》、刀剣タイプの魔力兵装がエインの魔力によって変形した細剣状の魔力兵装だ。
精緻な意匠の施された柄に、鍔のような物は付いておらず、エインの髪色と同じ黒紫色の刃と柄が一体化している。
オーキスの顔を写すほどに美しい表面のそれを見ていると、剣の中に吸い込まれるような錯覚を思わせる。
「なんで先日は忘れていたんですか?」
「副官殿の事が気掛かりだったんでね」
「私のせいですか!?」
「冗談だよ。単純に忘れただけ」
「隊長の冗談は割とわかりづらいんです・・・」
溜息混じりに嘆息する副官だったが、当の本人からしてみればあまり重要な問題でもない。
それより。
「お待ちしておりました。第三隊長殿と、その副官殿」
「よう、ガーネット。その様子だと総隊長殿から話は来てるみたいだな」
立ち止まったのは、巨大なエレベーターの前である。
そこに居たのはくすんだ白髪を肩の辺りで切り揃えたオカッパの少年とも青年とも、つかぬ男性であった。
ガーネット・リリエンバーグ、オニキアの所有するただ一つの牢獄、《アヴァロン》の管理人の一人である。
「ええ、本日第四面会室にてカナン殿との面会で合ってますか?」
「オッケーだ」
「では、どうぞ」
エレベーターの扉、鉄格子のようなそれがガラガラとやかましく鳴きながら開く。
階層のボタンがたったの四つしかないのは、これこそが《アヴァロン》への唯一の経路であり、脱獄を防ぐ為に入口の階層を除いて、《アヴァロン》以外へ繋がらないようにしている為だ。
「では、第四面会室へご案内します」
慇懃にガーネットが言った瞬間、聴く者を不安にさせるような音と共にエレベーターが下へと降り始めた。




