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oath kingdom  作者: にひけそい
3/16

優しくて、やりづらい侵入者


 《ガーデン》の西門前、オニキア軍本部基地から歩く事二十分程度で着くその都市は今、本来の活気が嘘のように静まり返っていた。

 街中に居るのは、倒れ込んだオニキア軍人数十名と、それを成した人物のみ。

 フルフェイスのメットで顔を隠し、真っ黒なロングコートで全身の体格を隠しているその人物は、黒手袋に黒ブーツといった装いで肌すらも一切見えない。


 「聞きたい事がある」


 フルフェイスはボイスチェンジャーにより、機械音となった声で倒れた兵士に尋ねる。


 「アレフディア・マーキュリアルという人物はどこに居る?」

 「う、うう・・・知らない」

 「私には嘘が分かる」

 「本当に、本当に知らないんだ・・・」

 「そう、ならいい」


 フルフェイスは兵士を地面に寝かせる。

 全員に質問をして、結局何も答えを得られなかったフルフェイスは、溜息を吐くような動作をしてから東側、つまりはオニキア軍の本部へと向かおうとするが、背後から、


 「まあ、待てよ」


 と、声を掛けられてその方に振り返る。


 「誰?」


 視線の先にいたのは、屋根の上に立つ青年であった。

 倒した兵士達と同様の軍服に、整髪料で固められた短めの黒紫色の髪、だが、その立ち姿や身に纏う空気はこれまでフルフェイスの打ち倒してきた兵士達とは明らかに違う。


 「俺はエイン・フォルネアス。そういうあんたは?」

 「・・・カナン」

 「そうかよ、じゃあカナン。尋ねたいんだが、どうしてそいつら全員殺してねえんだ?尋問するなら、一人くらいは殺した方がいいし、やらないにしても痛めつけたりした方が効果的だ」

 「結局、この島は全部探すつもりだから、殺す必要性を感じなかった。それだけ」

 「・・・そうか」



 屋根から飛び降りて、フルフェイスと対峙する。

 だが、どうにも乗り気じゃ無い。そして、その原因もエインは理解していた。


 (どうにもやりづらいんだよな。優しい奴とはさ)


 今の対話で、フルフェイスはどうしようもなく優しい人物であるということくらいは容易に推察できる。

 フルフェイスは、殺した方が速いし後顧の憂いを断つという意味でも殺した方が理解しているのに、理解した上でそれをやっていないのだ。これが優しい以外の何だというのか。


 「先に聞いときたいんだが、大人しく捕まっちゃくれないか?上手く行けば罪人としてでは無く、客人としてもてなせるかもしれねえ」

 「不可能。客人では、彼を救えない」

 「だよな」

 

 交渉失敗、まあ成功するとも思っていなかったが。

 いつもの愛武器とは違う、ここに来る途中で工房から受け取ってきた量産の魔力兵装を構える。

 《プロト:ソードタイプ》ー使い手によってその形を変える魔力兵装は、初期の形こそいくつかあるだけだが、持ち主に応じて無限にその形を変える。初期の魔力兵装は一律でプロトと名付けられており、持ち主の魔力登録をする事でその真価を発揮するのだが、それをしていない今のエインが持つ武器ではただ、魔力が良く通るだけの剣である。


 「偽りの剣で勝てるとでも?」

 「ちょっと相棒は家に忘れてきちまってね」

 「不可解、戦闘しに来たのでは?」

 「ちょっと、朝から後輩の事が気がかりだったんだよ」

 「後輩は男、女?」

 「女性だ」

 「好きなの?」

 「違えよ」

 「ムキに否定するのは肯定の裏返し?」

 「違うって言ってんだろ」

 「ほら、ムキになってる」

 「違うって、言ってんだろうが!」


 エインの刀から、魔力が迸り、それに答えるようにカナンの全身から、魔力が立ち上る。

 お互いの間にあった筈の距離は、一瞬でなくなり、拳と剣が激突、辺り一帯を衝撃が襲った。


 「くっ!」

 「・・・ッ」


 互いに弾かれあい、コンクリートでエインの靴底が削られる。

 それと同時に視界の端で吹き飛ぶ怪我人達の姿。


 「やべっ、怪我人の事忘れてた」

 

 気を取られたのは一瞬だが、それは致命的な隙となる。


 「余所見?」

 「しまっ・・・」


 一瞬で目の前に現れたカナンの拳を受け損ねて、腹部に直撃を貰い、建物をぶち抜きながら五十メートル程吹き飛ばされる。

 何とか体制を整えて、追撃に備えるが、ゆっくり歩きながら近づいてくるカナンには攻撃の意思が見えない。


 「ここなら安心して戦える?」

 「あ?・・・ちっ、そういう事か。悪いな」


 彼女の意図を察する。

 どうやら、気を遣われてしまったらしい。


 「気にしないで、私も気がかりだった」

 「そりゃどうも」


 再び、対峙する二人。

 張り詰めた空気が場に戻ってきて、不思議な程の沈黙が二人の肌を突き刺す。


 そして、再度、火蓋を切ったのはカナンの拳であった。

 大地が割れる程の踏み込みと共に放たれた風を切るそれを躱し、袈裟懸けに剣を振り下ろす。

 

 「くっ」

 「ちっ」


 直撃。だが、何の素材で作られているのか、コートを切れてすらいない。

 うめきつつ放たれた稲妻の如き蹴りを剣の腹で受け止めるが、威力を殺し切れずにそのまま家屋の上まで飛ばされてしまう。


 「その拳にしろ、服にしろ何で出来てんだよ!」

 

 初期の形とは言え、魔力兵装は魔力さえ通せば鋼すら紙のように切り裂く。

 それで傷の一つすら付かないのだから、苦言の一つも言いたくなるというものだ。

 だが、愚痴ばかりを言っている暇は無い。

 屋根の上に飛び上がってきたカナンの踵落としを剣で迎撃、弾き返す。

 落下するカナンの着地際を狙って追撃するが、振り下ろした剣は交差したカナンの腕に止められ、カウンターの蹴りが槍のように腹部に突き刺さった。


 「ガハッ!」


 吹き飛ばされ、高層ビルディングの壁に叩きつけられる。

 そして、それと同時に見た。

 光り輝く魔力の奔流と、それを放とうとするカナンの姿を。


 「龍咆ドラゴロア


 カナンが呟いた瞬間、閃光が、破壊の意思を持った圧倒的な魔力の塊がエインごと周囲の空間を焼き尽くしながら、空を貫いた。



 

 この程度では死なない。

 そう判断して、カナンの放った攻撃は果たしてカナンの推測通りではあった。

 だが。


 「やるな。あんた」


 予想以上に対峙する相手は強敵であった。

 たしかに、消し飛んだ建物の綺麗な断面に立つ男性の軍服は所々が焼け焦げており、剣に関しては刀身が火花を散らし、所有者の魔力を流すのであろう柄の部分は完璧に壊れている。

 けれども、その全身から放たれる威圧感や口調には些かの陰りも見えはしない。


 「その様を見せられて、褒められても嬉しくは無い」

 「そりゃそうか」


 楽しそうに笑うエインは、壊れかけの剣や胸元から取り出した機械を投げ捨て始める。

 勝負を捨てた、という風には見えない。

 警戒を解かずにそれを眺めていると、エインは身につけた機器を全部外して、カナンの立つ建造物の方に飛び乗ってくる。


 「一体何を?」

 「見てりゃ分かるだろ。通信機器やら何ちゃらを外してきたんだよ」

 「何故?」

 「それも・・・見てれば分かる」


 そう言って、エインが構えた瞬間。

 嫌な予感に襲われてカナンは先に仕掛けた。

 大木どころか、鉄塊すら破壊する一撃は咄嗟に上体を逸らしたエインの眼前を通過する。


 「ちっ、いい勘してやがんな」


 後退するエインを追撃、そして。


 「貴方は危険、少しだけ本気でやらせてもらう」

 「!?」


 瞬間、カナンの速度、膂力、身に纏う魔力、その全てが急激に上昇、その変化に対応しきれず、エインの顔面にその恐るべき破壊力を秘めた拳が叩き込まれた。

 骨の砕ける感触が伝わり、エインの身体が病葉のように吹き飛んでいく。

 恐らく死んではいないだろうが、それでも致命傷だ。魔法による治療をしなければ死んでもおかしくない。


 「ごめんなさい」


 下手をすれば死んでしまうかもしれない、そんな傷を負わせてしまった事への罪悪感が積もる。

 せめても、と、償いの言葉を呟いた瞬間、雷鳴が轟いた。

 それは雲の上にあるこの島では中々に珍しい事であり、カナンが思わず空を見上げるが、空には黒い積乱雲どころか、雲ひとつ無い。

 ならば、下の方だろうと、結論付けて歩き出そうとすると、眩い光と共に都市から稲妻が空へと昇った。


 「あれは・・・一体」


 



 


 

 

 


 

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