第三十二話「お茶と家庭訪問」
二〇〇〇年(平成十二年)五月十五日、月曜日。
青葉高校、職員室。
『……家庭訪問、ですか?』
「ええ。今日から順番に回っていただきます」
小野寺修一が、机の上に置いた書類を指さした。
「訪問先の住所と予定時刻はこちらです。保護者の方には、事前に連絡してありますから」
『あ、はい。それは分かるんですけど……』
リンは書類を覗き込んだ。
生徒の名前。
住所。
訪問予定時刻。
そして、備考欄。
今日の最初の訪問先には、佐伯大輔の名前があった。
『……家まで行くんですよね?』
「家庭訪問ですからね」
『ですよねぇ……』
なんとも間の抜けた返事になってしまった。
家庭訪問というものが存在することは、もちろん知っている。
ただ、リンが馴染んでいたのは、玄関先で短く話を済ませたり、学校での個人面談に切り替えたりするやり方だった。
わざわざ生徒の家を一軒ずつ訪ねるとなると、少し勝手が違う。
「山元先生は、今年が初めてでしたね」
『はい。ちょっと緊張します』
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。学校での様子を伝えて、家庭での様子を聞く。それが基本です」
『なるほど……』
「三年生ですから、進路の話も出るでしょう。すぐに結論を出そうとせず、まずは本人と保護者の考えを聞いてください」
『はい!』
リンは頷いた。
小野寺は書類を一枚めくる。
「それから、お茶などを勧められることもあると思いますが、あまり長居しないようにしてくださいね」
『……お茶?』
「ええ」
『あ、はい。分かりました』
言われてみれば、訪問先で飲み物を出されることくらいはあるのかもしれない。
リンはそれほど深く考えず、書類を鞄にしまった。
◇
午後三時四十分。
リンは佐伯家の前に立っていた。
住宅街の一角にある、落ち着いた佇まいの一軒家。
住所を確認し、表札を確かめる。
『……よし。ここだ』
予定時刻より少し早い。
リンは身だしなみを整え、玄関へ向かった。
そして、足を止めた。
『……ん?』
玄関の引き戸が開いている。
正確には、ガラス戸が開け放たれ、その手前に網戸が張られていた。
中へ風を通すためだろう。
今日は五月にしては少し暑い。
確かに、これなら涼しい風が入ってきそうだ。
ただ。
『……え、開けっぱなし?』
リンは思わず周囲を見回した。
門扉はあるものの、鍵がかかっている様子はない。
玄関も、網戸一枚。
外から声をかければ、そのまま家の中まで届きそうな造りだった。
――いやいやいや。
不用心じゃない!?
知らない人が来たらどうするんだろう。
もちろん、網戸を閉めているからといって誰でも入っていいわけではない。
それは分かっている。
分かっているのだが。
『……平成って、こんな感じなの?』
小さく呟いてから、リンは自分の考えを打ち消した。
いや、家によるよね。
きっとそう。
それに、いつまでも玄関を眺めているわけにはいかない。
リンは網戸の前で背筋を伸ばした。
『すみませーん』
自分では、それなりに大きな声を出したつもりだった。
しかし。
…………。
返事がない。
『……あれ?』
もう少し耳を澄ませてみる。
家の奥から、かすかにテレビの音が聞こえていた。
誰かが動いているような気配もする。
声が届かなかったのだろうか。
もう一度呼んでみようかと思ったが、リンは少しためらった。
もしかしたら今、こちらへ向かっている最中なのかもしれない。
そこで大声を出したら、なんだか催促しているみたいだ。
…………。
さらに数秒。
誰も出てこない。
『…………』
リンは網戸を見つめた。
……うん。
もう一回、呼ぼう。
今度はちゃんと届くように。
小さく息を吸う。
『すみませーーーん!!』
「はーーい! 今行きまーす!」
『……!』
今度はすぐに返事があった。
リンは安堵したものの、少し恥ずかしくなった。
さすがに大きすぎただろうか。
ほどなくして、家の奥から一人の女性が姿を現した。
「はいはい、お待たせしました!」
女性はリンの姿を確認すると、にこやかに頭を下げた。
「あら、凛先生ですね?」
『あ、はい! 山元です! 今日はよろしくお願いします!』
「こちらこそ。大輔がお世話になっております」
『いえ、そんな! こちらこそ、いつも助けてもらってます!』
「ふふっ。そうですか」
佐伯の母親は笑いながら、網戸を横へ滑らせた。
「さあ、どうぞ上がってください」
『……えっ?』
リンは瞬きをした。
「どうぞ。大輔も中で待ってますから」
『あ、いえ! 玄関で大丈夫です!』
「え?」
『その、ここでお話しできれば……』
母親は少し不思議そうな顔をした。
しかし、すぐに柔らかく笑った。
「そんな、先生を玄関先に立たせたままなんて。どうぞ遠慮なさらずに」
『えっ、でも……』
「お茶も用意してありますから」
『……お茶!?』
思わず声が裏返った。
「はい?」
『あっ、いえ! ありがとうございます!』
――本当にお茶、出るんだ!?
小野寺の言葉を思い出す。
あれは、こういうことだったのか。
「ほら、先生。どうぞ」
『あ、はい。お邪魔します……!』
リンは慌てて靴を脱いだ。
◇
案内されたのは、畳敷きの居間だった。
座卓の上には湯飲みが三つ。その隣には、小皿に盛られた菓子が並んでいる。
『…………』
リンは思わず立ち止まった。
え。
本格的。
これ、本当に家庭訪問?
「先生、こちらへどうぞ」
『あっ、はい!』
勧められた座布団に腰を下ろす。
正面には佐伯大輔が座っていた。
「凛先生、こんにちは」
『佐伯さん、こんにちは!』
「……先生、緊張してます?」
『えっ!? そんなことないよ!?』
「そうですか?」
佐伯は少し笑った。
そのとき、廊下から足音が聞こえてきた。
「兄ちゃん、先生来たの?」
「来たよ。お前ら、静かにしてろよ」
居間の入り口から、小学生くらいの男の子が二人、顔を覗かせた。
一人は興味津々といった様子でリンを見つめ、もう一人は兄の後ろへ回り込む。
「あ! 女の先生だ!」
「こら、失礼だろ」
『あはは! こんにちは!』
「こんにちは!」
「……こんにちは」
二人は元気よく、あるいは少し恥ずかしそうに挨拶した。
母親が台所から顔を出す。
「二人とも、先生と大事なお話があるんだから、向こうで遊んでてね」
「えー!」
「あとで大輔に宿題を見てもらうんでしょう?」
「……はーい」
二人は渋々といった様子で廊下へ戻っていく。
佐伯がその背中へ声をかけた。
「走るなよ。あと、テレビの音、小さくしとけ」
「分かったー!」
遠ざかっていく足音。
リンは佐伯を見た。
『弟さん?』
「はい。二人とも、まだ小学生なんです」
『元気だねぇ』
「元気すぎるくらいです」
佐伯は苦笑した。
学校で後輩をまとめているときとは違う、兄としての顔だった。
居間の隅には、使い込まれた学習机が一つ置かれていた。
その横にはランドセルが二つ並び、壁には学校から配られたらしいプリントが留められている。
机の上には教科書とノートが重ねてあり、空いた場所に鉛筆立てが置かれていた。
家族の暮らしが、そのまま目に入ってくる。
「お待たせしました」
母親がお茶を運んできた。
「先生、どうぞ。お菓子も遠慮なく」
『ありがとうございます!』
リンは湯飲みを両手で持った。
温かいお茶を一口飲む。
『……おいしいです』
「あら、よかった」
母親が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、リンもようやく肩の力を抜いた。
◇
「それで先生。学校では、大輔はどうでしょうか」
『はい! 佐伯さんは、クラスでも部活動でも、とても頑張っています』
「そうですか」
『空手部では主将として後輩たちをまとめていますし、練習にも熱心です』
「先生、大げさですよ」
『大げさじゃないよ。ちゃんと見てるから』
佐伯が照れくさそうに目を逸らした。
「家ではあんまり学校の話をしないんですよ、この子」
母親が笑う。
「空手の話はするんですけどね」
「母さん……」
「本当でしょう?」
「……まあ」
佐伯は頭を掻いた。
学校では、いつも落ち着いた空手部主将。
けれど母親の前では、年相応の表情を見せる。
リンはその違いを少し面白く感じた。
「この間も、大学へ練習に行かせていただいたそうで」
『はい。東央大学ですね』
「帰ってきた日は、ずいぶん悔しそうにしてました」
「……そんな顔してた?」
「してたわよ。ご飯食べながら、ずっと難しい顔してたもの」
『あはは……』
リンは小さく笑った。
東央大学の合同練習で、佐伯は一度も勝てなかった。
しかし、ただ負けただけではない。
強い相手と組み手を重ねるなかで、自分の動きを何度も修正していた。
鬼塚監督も、その姿勢を評価していた。
『佐伯さんにとって、すごく良い経験になったと思います』
「そうですか。よかったわね、大輔」
「……うん」
佐伯は短く答えた。
リンはそこで、進路の話を切り出した。
『それで……卒業後のことについても、少しお話しできればと思っています』
母親が頷く。
「はい」
『佐伯さん。今は、どう考えてる?』
「……就職です」
佐伯は答えた。
「高校を卒業したら、働こうと思ってます」
リンは佐伯を見た。
『東央大学に行ってからも、その考えは変わってない?』
「…………」
佐伯の返事が止まった。
母親が息子を見る。
「大輔?」
「……いや」
佐伯は座卓へ視線を落とした。
「変わってないって言ったら、嘘になります」
『……うん』
「でも、だからって……」
佐伯は言葉を探していた。
そのとき、台所から小さな電子音が聞こえた。
「あら、いけない」
母親が立ち上がる。
「ちょっと失礼しますね」
台所へ向かった母親は、何かを確認すると居間へ戻ってきた。
「夕飯の支度、途中だったものですから」
『あっ、こちらこそ、お忙しい時間にすみません!』
「いいんですよ。今日は仕事も早く上がらせてもらいましたし」
母親はそう言って座布団に戻った。
「それに、この子たち三人とも、よく食べるんですよ」
「俺は普通だろ」
「そう? この前だって、おかわり三杯してたでしょう」
「……二杯だよ」
『あはは!』
リンが笑うと、佐伯もつられて笑った。
母親は嬉しそうに息子を見つめていた。
その横顔を見ながら、リンはふと先ほどの学習机を思い出した。
二つのランドセル。
重ねられた教科書。
仕事を早く切り上げて家庭訪問の準備をしてくれた母親。
そして、弟たちに宿題を見てやるよう声をかけていた佐伯。
この家での佐伯は、空手部の主将であると同時に、二人の弟の兄でもあるのだ。
「……母さん」
佐伯が口を開いた。
「俺、やっぱり就職した方がいいと思う」
「どうして?」
「……僕が、そうするべきだと思ってるからです」
母親は少し黙った。
そして、静かに首を横に振った。
「大輔」
「……うん」
「どうするべきかじゃない。あなたがどうしたいかを教えて」
佐伯は顔を上げた。
「……でも」
「お母さんが聞きたいのは、あなたが何を我慢できるかじゃないの」
「…………」
「あなた自身が、これからどうしたいのか。それを教えてほしいのよ」
佐伯は膝の上で拳を握った。
リンは何も言わなかった。
やがて。
「……空手を」
佐伯が顔を上げる。
「空手を、まだまだ続けていきたい」
母親が静かに頷いた。
「東央大学に行ったとき、思ったんだ。今まで自分なりに頑張ってきたつもりだったけど、全然通用しなかった」
「……うん」
「すごく悔しかった。でも、あそこで練習してる人たちを見て……俺も、ああなりたいって思った」
佐伯は母親をまっすぐに見た。
「東央大学で、空手がしたい」
母親はその言葉を聞くと、ゆっくりと息を吐いた。
「……そう」
「うん」
「やっと聞けたわね」
「……え?」
「大輔が本当にやりたいこと」
佐伯は少し驚いた顔をした。
母親が笑う。
「そんなに言いにくかった?」
「……そりゃ、まあ」
「お母さん、そんなに怖い?」
「違うって!」
佐伯の反応に、リンも思わず笑ってしまった。
『ふふっ』
「先生まで……」
『ご、ごめんね』
母親は湯飲みを置いた。
「大学へ行きたいのね」
「……うん」
「だったら、どうすれば行けるのか、一緒に考えましょう」
佐伯が顔を上げた。
「……いいの?」
「もちろん、簡単なことじゃないわよ」
母親は穏やかに答えた。
「でも、あなたが本当にやりたいことなら、最初から諦める必要はないでしょう?」
佐伯はしばらく母親を見つめていた。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……ありがとう」
◇
『あの、東央大学には、空手の特待生制度があります』
リンが口を開いた。
「特待生?」
母親がこちらを向く。
『はい。選考に通れば、学費などの支援を受けられる制度です』
「そういう制度があるんですね」
『ただ、佐伯さんが選ばれると決まったわけではありません』
「……はい」
『鬼塚監督は、佐伯さんの取り組む姿勢を評価してくださっていました。でも、正式な選考はこれからです』
佐伯が頷いた。
「……凛先生」
『うん?』
「俺、その特待生を目指したいです」
リンは佐伯を見た。
「東央大学に、特待生で入れるように頑張りたい」
『……うん』
「でも」
佐伯は一度言葉を区切った。
「もし、特待生になれなかったら……そのときは就職します」
母親が息子を見る。
「大輔」
「大学には行きたい。でも、どうしても行かなきゃ嫌だって、母さんに無理を言うつもりはない」
「…………」
「特待生になれるように、俺ができることを全部やる。それでも駄目だったら、働く」
佐伯は母親を見つめた。
「それが、俺の決めたことだから」
母親はしばらく黙っていた。
やがて、静かに頷いた。
「……分かったわ」
「……うん」
「でもね、大輔」
母親は少しだけ身を乗り出した。
「それで駄目だったら、もう何もできないって決めつける必要もないのよ」
佐伯が瞬きをする。
「お母さんだって、一緒に考えるんだから」
「……母さん」
「だから今は、特待生を目指して頑張りなさい」
佐伯は少しだけ俯いた。
それから顔を上げ、力強く頷いた。
「……うん!」
リンは二人を見つめていた。
佐伯が決めた条件。
母親が示した理解。
どちらも、相手のことを考えている。
『佐伯さん』
「はい」
『じゃあ、まずは特待生の選考条件を詳しく調べよう。小野寺先生や荒川先生にも相談してみる』
「……お願いします!」
『うん!』
リンは笑顔で頷いた。
『佐伯さんが自分で決めたことなら、あたしもできる限り応援するよ!』
佐伯は深く頭を下げた。
「ありがとうございます、凛先生」
廊下から、弟たちの声が聞こえてきた。
「兄ちゃーん! 宿題終わったー!」
「これ、合ってるか見てー!」
佐伯は思わず笑った。
「……ちょっと待ってろ!」
母親も笑っている。
「ほら。家でも頼りにされてるんですよ、この子」
『ふふっ。学校でも同じですよ』
「……先生、もう勘弁してください」
佐伯は照れくさそうに笑った。
◇
話が一段落した頃には、予定していた訪問時間を少し過ぎていた。
リンは壁の時計を見て、慌てて立ち上がった。
『あっ! すみません、そろそろ次の訪問があるので……!』
「あら、もうそんな時間ですか」
『はい! 今日はありがとうございました!』
「こちらこそ。わざわざ来ていただいて」
母親も立ち上がる。
「先生、お茶のおかわりはいかがですか?」
『えっ!?』
「まだ少しありますから」
『あ、いえ! 大丈夫です! 十分いただきました!』
「そうですか?」
『はい! とってもおいしかったです!』
「ふふっ。それならよかった」
リンは鞄を持ち、玄関へ向かった。
佐伯も見送りについてくる。
「凛先生」
『ん?』
「……ありがとうございました」
『何が?』
「今日、来てくれて」
リンは少し首を傾げた。
『家庭訪問だから、来るのは当たり前だよ?』
「……そうなんですけど」
佐伯は一度視線を落とし、それから言った。
「先生がいなかったら、東央大学の練習に参加する事もなかったから」
『…………』
「だから、ちゃんと目指してみます」
リンは佐伯を見つめた。
『……うん』
「まだ、どうなるか分かりませんけど」
『そうだね』
リンは微笑んだ。
『でも、佐伯さんが本当に行きたい場所なんでしょ?』
「……はい」
『だったら、そこを目指して頑張ろう』
「はい!」
佐伯は力強く頷いた。
その返事を聞いて、リンも笑顔になった。
『じゃあ、また学校でね!』
「はい。お気をつけて!」
母親にも頭を下げ、リンは佐伯家を後にした。
◇
リンの姿が見えなくなるまで、佐伯は玄関先に立っていた。
「大輔」
背後から母親に呼ばれ、振り返る。
「いい先生じゃない」
「……うん」
「冷めてるようで、あなたの事ちゃんと考えてくれているのね」
佐伯は少し考えてから、笑った。
「……そうなんだよ」
「やっぱり?」
「最初は、何考えてるのか分かんない先生だと思ってたけどさ」
佐伯はリンが歩いていった道へ、もう一度目を向けた。
「ちゃんと見てくれてるんだ。俺たちのこと」
母親は嬉しそうに微笑んだ。
「そう。よかったわね」
「……うん」
そのとき、家の奥から声が飛んできた。
「兄ちゃーん! 宿題まだー!?」
「早く見てよー!」
「あー、分かった! 今行く!」
佐伯は苦笑して、玄関の網戸を閉めた。
◇
住宅街を歩きながら、リンは次の訪問先を確認した。
『……えっと、次は……』
鞄から予定表を取り出す。
まだ、今日の家庭訪問は終わっていない。
リンは少しだけ足を緩めた。
教室では、いつも落ち着いている佐伯。
後輩の前では、頼れる主将。
けれど家では、母親に自分の希望を伝えることさえ、ためらっていた。
学校で見ている姿だけでは、分からないこともあるのだ。
『……なるほどなぁ』
リンは小さく呟いた。
家庭訪問。
最初は、どうしてわざわざ家まで行くのだろうと思っていた。
けれど、今日の佐伯の言葉は、学校で二人きりで話していたときとは違っていた。
本人が自分の気持ちを伝える。
家族がそれを聞く。
そして、これからどうするかを一緒に考える。
そんな時間を、教師もそばで見守ることができる。
『……悪くないかも』
リンは少し笑った。
その直後。
『……あっ』
ふと思い出した。
玄関先での、あの出来事。
開け放たれた引き戸。
網戸。
二度目の大きな呼びかけ。
そして、居間へ案内されたこと。
『…………』
次の家も、あんな感じなのだろうか。
また、お茶が出てくるのだろうか。
もしかして、お菓子も?
『……いや、さすがに全部の家がそうじゃないよね』
誰にともなく呟く。
リンは予定表を折りたたみ、鞄に戻した。
そして、少しだけ歩く速度を上げた。
初めての家庭訪問は、まだ始まったばかりだった。




