特異点の胎動、あるいは二つの世界の二重露光(ダブルエクスポーズ)
全次元を統べる俺の指先に、決定的な「世界のバグ」が伝わってきた。
一つは、辺境の森で《収納》という名の究極能力を手にし、かつての勇者たちの剣を「過去」として踏み越えた男・レオンの歩み。
もう一つは、狂乱のタワーで、友である扶桑と共に「ただモカを飲みに来ただけ」のはずが、運命の濁流に飲み込まれていく男・蒼龍の視線だ。
「エルゼ、見ろ。ファンタジーの深淵でレオンが拾い上げた『10円硬貨』。それが、この現代タワーの入り口で、蒼龍が自販機に投入しようとしているコインと、寸分違わぬ共鳴を起こしている」
俺の隣で、エルゼが瞳に戦慄を宿し、二つの異なる物語が一つに溶け合う境界線を見つめている。
レオンが捨て去った「最高のハッピーエンド」の残骸。それが、蒼龍が対峙する「タワーの影」を暴くための唯一の鍵となろうとしていた。
「主……。蒼龍様はまだ気づいていません。彼が守ろうとしている日常、若宮ちゃんの笑顔、そしてあのディスコの喧騒の裏に、どれほど巨大な『嘘』が仕掛けられているのかを。そしてレオンが《収納》してきたものが、実はこの世界を根底から覆すための『概念』であったことも」
俺の神としての権能が、急激にノイズ混じりの「現実」へと引きずり込まれていく。
ハイファンタジーの壮大な詠唱は、タワーを揺らすラップの重低音にかき消され、黄金の法廷は、バズーカの硝煙が立ち込める非常階段へと変貌していく。
$$Authority: \text{The Infinite Convergence of Narrative}$$
$$Effect: \text{Causal Overlap / The Resonating Will}$$
「な、なんだ……!? 蒼龍の叫びが、レオンの孤独な決意と重なり合う! 俺の神性は、もはや彼らがこれから直面する『真実』の重みに耐えきれない……!」
俺は予感する。
101話から始まる物語は、もはや神が人を裁く余興ではない。
蒼龍が「ただの友人」として、レオンが「ただの役立たず」として、それぞれが失ったものの大きさを噛みしめながら、この世界の最上階に隠された「マスターの秘密」に手をかける物語なのだ。
「いいだろう。レオン、お前が持ってきた『向こう側』の力を、蒼龍に託せ。エルゼ、お前も準備はいいな? 蒼龍と扶桑、そして若宮ちゃんたちの狂おしくも美しい戦いが、今、俺たちの物語を飲み込もうとしている」
黄金の光が消失し、代わりに激しい雨と、安っぽいモカの香りが鼻腔を突く。
俺の意識は、タワーを駆け上がる蒼龍の鼓動と同期しながら、ついに「100話」という名の最終接続へと手を伸ばした。
嘘が本当になるその前に、俺たちはまだ、語らねばならないことがある。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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