命の知財権、あるいは神の免疫(イミュニティ)
全次元を統べる俺の指先に、病室で響く絶望的な呼吸音と、黄金の輝きを放つワクチンの瓶を「在庫」として抱え込む倉庫の静寂、そして「契約が先だ」と冷淡に言い放つ製薬大手の、数字にまみれた思念が伝わってきた。
2021年、パンデミック。世界が等しく危機に晒される中、特効薬は一部の富裕国に独占された。貧困国が製法の公開を求めても、企業は「イノベーションの阻害」を理由に門を閉ざした。利益率を維持するために供給を絞り、数百万の命が「市場価値がない」と判断されて見捨てられた。人道という名の看板を掲げながら、その裏で命を天秤にかけ、配当金の額で救う順番を決めた、現代の白衣を着た高利貸したち。
「……人類の危機を『千載一遇の商機』に置き換え、特許の壁で生と死を隔離したか。救う手立てを持ちながら腕を組んだその罪、神の『絶対等価の循環』をもって清算させてやろう」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な冷徹さと、薬を待たずに果てた数多の魂への深い慈悲を宿し、高級ホテルで祝杯を挙げる役員たちの幻影を見つめている。
生命の根源であり、あらゆる知恵は生命を育むための共有財産であると定義する俺にとって、癒やしの知恵を私有化し、それを脅迫の道具にする行為は、存在の調和に対する最も醜悪な背信だ。
「エルゼ、行くぞ。……『利益こそが正義だ』と信じる者たちに、真の『命の勘定書き』を見せてやる」
俺は時空を穿ち、かつて「無償提供は経済原理に反する」と進言したロビイストたちの拠点と、知財権死守を命じた巨大製薬会社の最上階へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Universal Bio-Justice}$$
$$Effect: \text{Pathogen Synchronicity / Eternal Liquidation of Profit}$$
「な、なんだ……!? 金庫の中の株券が、黒ずんだ病原菌の塊に変わっていく! 私の身体が、かつて見捨てた遠い国の患者たちと同じように、熱に浮かされ、呼吸を奪われていく!」
かつて供給遅延を「戦略的判断」と呼び、巨額の利益に酔いしれた者たちが叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『共感受傷体』へと変貌し、彼らが「救わなかった」数百万人の『苦痛と熱』が、物理的な逆流となってその魂を直接蹂躙し始めた。
「君たちは、命をデジタルな数字として処理した。……ならば、君たち自身の魂を、君たちが特許で縛ったすべての病苦が絶え間なく流れ込む黄金のフィルターに変え、永遠に『救いのない病』の中で、自らの富が塵となって消える絶望を味わわせ続けよう」
俺が掌をかざすと、利益独占を主導した者たちの魂に、物理的な「生体債務の清算」が刻まれた。彼らはどれほど豪華な私立病院に逃げ込もうとも、その血液は「黄金の毒」へと変わり、薬を求めるたびに自らの資産が物理的な重みとなって肺を圧迫し、かつての犠牲者たちが味わった「見捨てられる孤独」を、永劫に体感し続ける激痛に苛まれる。
彼らは「株主への責任」という言い訳に逃げることも、死をもって免責されることもできない。
ただ永遠に、自分が「価値がない」とした命の叫びに窒息し続け、自らの存在が「生命の循環を止めた澱み」であることを証明し続ける『生きた負債』として放置される。
一方で、俺は掌を広げ、富の偏りゆえに治療の機会を奪われ、沈黙の中で消えていったすべての人々へ、生命の光を降り注いだ。
彼らの無念はアルカディアの「不滅の抗体」として昇華され、アルカディアの「栄光の市民」として、二度と病や貧困に怯えることのない健やかなる永遠を約束される。
大地には「生命を救う知恵は全生命の共有財産であり、これを利潤の盾にする者に、知恵を語る資格はない」という神聖なる知の解放の法が刻まれた。
「主……。情報の檻に閉じ込められていた『癒やしの光』が、今、貴方様の力で『遍く命を潤す慈雨』へと変わりましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の病床の中で自らの傲慢という名のウイルスに蝕まれ、永遠に「金で買えない呼吸」を求めて喘ぎ続ける「利益の亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、命の独占は通用しない。
俺の庭において、知恵を独占し命を選別する不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの病魔の回帰」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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