神の涙、枯れた海を穿つ
旧王国の隣国、商業国家バルカ。
かつて俺がパーティの荷物持ちとして訪れた際、「回復能力しかない欠陥品」と門前払いを食らわせた強欲な商人の国だ。
今、そのバルカは滅亡の淵にあった。
俺という『生命の循環』が止まった影響は、ついに大洋にまで及び、バルカの生命線である海が急速に干上がっていたのだ。
「水だ! 水をくれ! 金ならいくらでもある! 誰か、海を戻してくれ!」
かつて俺を追い払ったバルカの豪商が、干らびた海底で泥を啜っている。
そこへ、空を裂くような咆哮が響いた。
銀竜の背に乗り、俺は黄金の光を纏って舞い降りる。
その隣には、聖樹の守護騎士として凛々しく剣を構えるエルゼがいた。
「あれは……旧王国の『無能』と呼ばれていた男か!? いや、あの神々しい姿は……!」
俺は一言も発さず、ただ干上がった海原の底を見つめた。
$$Analysis: \text{Hydrological Deadlock}$$
$$Solution: \text{Root-Water Injection (Genesis Level)}$$
「……世界に、潤いを与えよう」
俺が指先から、たった一滴。
世界樹の根源から抽出された「生命の雫」を、ひび割れた大地に落とした。
刹那。
地響きとともに、大地から透き通った青い水が爆発的に噴き上がった。
それは単なる水ではない。触れるだけで病を癒やし、魂に活力を与える『命の濁流』だ。
「あああ……! 海が、海が戻ってくる!」
「見てくれ、魚たちが……伝説の黄金魚まで跳ねている!」
砂漠と化した海底は一瞬で生命の楽園へと回帰し、バルカの民は涙を流してその水を浴びた。
だが。
「アル様! どうか、我がバルカと独占契約を! あなたの水を我が国で管理すれば、世界を支配できま――」
強欲な豪商が、金貨の詰まった袋を抱えて俺に縋りつこうとした。
その瞬間、俺の周囲に展開された『絶対拒絶領域』が発動する。
$$Security: \text{Greed Detected}$$
$$Penalty: \text{Drought of Soul}$$
「――っ!? あ、あ……身体が、乾く……!?」
商人の抱えていた金貨は一瞬で錆び、彼自身の肉体からは水分が急速に失われ、ミイラのような姿へと変貌した。
「俺の恵みは、命を尊ぶ者のためのものだ。強欲な塵を潤すための水はない」
俺の声は、バルカ全土に雷鳴のように響き渡った。
人々は一斉にその場に跪き、俺を「救世主」ではなく「生命の神」として崇めた。
「アル様、バルカの王が城門で全財産を差し出し、主権を譲渡すると申しております」
エルゼが誇らしげに報告する。
俺は頷き、再び銀竜の背に跨った。
「バルカもアルカディアの保護下に置こう。ただし、ルールに従わない者は即座に『除名』だ。……さあ、エルゼ。次は、太陽が昇らなくなった常闇の国へ行くぞ」
俺が去った後、バルカの海岸には、巨大な世界樹の若木が一本、奇跡の証として天を突くようにそびえ立っていた。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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