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生命の選別(スクリーニング)

 世界樹の都『アルカディア』が誕生して一週間。


 この地は今や、滅びゆく旧王国から逃れてきた者たちにとって、唯一の「方舟」となっていた。


「主よ。城門の外には、さらに三千の民が列をなしております。……彼らは、かつて主を『無能』と嘲笑った王都の貴族や、重税を課していた役人たちも含まれているようですが」


 聖樹の守護騎士となった王女エルゼが、銀の鎧を鳴らして俺に報告する。


 彼女の瞳には、もはや旧王国の王女としての迷いはない。ただ、俺という根源への絶対的な忠誠だけが宿っていた。


「エルゼ。俺の庭に入る資格は、身分でも金でもないと言ったはずだ」


 俺は世界樹の最上層から、遥か下方に広がる「絶望の行列」を見下ろした。


$$System \ Scanning: \text{Character Check}$$

$$Target: \text{Refugees (Batch 07)}$$

$$Attribute: \text{Ingratitude (High) / Greed (High)}$$

「……選別を始めよう。俺を捨て、俺の生命コストを当然のように貪ってきた連中に、相応の『対価』を教えてやる」


 俺が指を軽く鳴らす。


 すると、城門の前に巨大な『生命の天秤』が光り輝きながら出現した。


「な、なんだこれは!? 早く中に入れろ! 俺は王都の第一書記官だぞ!」


「この私が、あんな平民どもと一緒に並べというのか! アル、聞こえているんだろう! 昔のように、タダで俺の病を治せ!」


 門の外では、かつての権力者たちが醜く叫んでいた。


 だが、彼らが天秤の光に触れた瞬間――。


(――不適合。生命の負債が許容値を超えています)


(――入域拒否。強制的に『過去のツケ』を徴収します)


「ぎ、ぎああああああッ!?」


 叫んだ書記官の身体が、一瞬で枯れ木のように干らびた。


 彼が今までアルの力を借りて踏み倒してきた『病』、そして他人から搾取してきた『活力』。それがすべて、今この瞬間に世界へと返却リストアされたのだ。


 一方で。


 重い病の娘を抱え、ただ静かに祈っていた貧しい親子が天秤をくぐると、その身体はまばゆい黄金の光に包まれた。


「……あ、足が。お父さん、足が動くよ!」


「ああ……ありがとう、アル様……! ありがとうございます……!」


 天秤は、その者の『心根』と『負債』を正確に計測する。


 俺を信じ、共に歩もうとする者には無限の「恵み」を。


 俺を利用し、踏みつけようとした者には無限の「取り立て」を。


 それが、新世界のルールだ。


「エルゼ。入れるのは、自分の足で立ち、世界を慈しめる者だけだ。残りの『ゴミ』は、旧王国の崩壊とともに土に還してやれ」


「御意に、我がマイ・ロード


 俺の言葉とともに、王女エルゼが聖剣を抜く。


 彼女が放つ一閃は、もはや魔力ではなく、俺から分け与えられた「生命そのものの衝撃波」だ。


 それは不浄なるものを薙ぎ払い、聖域を汚す「負債者」たちを次々と灰へと変えていく。


 空を見上げれば、銀竜が咆哮し、雲を散らす。


 かつての俺は、彼らの寿命を必死に繋ぎ止める「奴隷」だった。


 だが今の俺は、誰が生き、誰が死ぬかを決める「審判者」だ。


 旧王国の王城が、生命の供給を断たれてガタガタと崩れ落ちる音が、風に乗って聞こえてくる。


 そこに残された王族たちの絶望を、俺はもう、数える気にもならなかった。


「さて、エルゼ。次は、この世界の『枯れた海』を癒やしに行こうか」


 俺の旅は、復讐のその先にある、真の「天地創造」へと加速していく。

著者の完結済代表作はこちら

「シャルンホルストとグナイゼナウ」

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