徴収は、止まらない
王都から派遣された騎士団が、一歩も戦うことなく「老人ホームの集団」と化して敗走したというニュースは、王都全土を凍りつかせた。
だが、真の恐怖はそこからだった。
俺という『生命の蛇口』を失った影響は、パーティメンバーだけでなく、彼らに依存していた王都のシステムすべてに波及し始めていたのだ。
「陛下! 王宮の魔力炉が停止しました! これまでアルの余剰生命力で稼働していた結界が、すべて霧散しています!」
「街の噴水も枯れ、農地の作物が一斉に萎凋を始めました……! これは、まるで、国全体の『寿命』が尽きようとしているかのようです!」
王座の間で、国王は震えていた。
彼らは気づいていなかった。伝説のパーティを支えていたアルが、実はこの国全体の生命循環の『バイパス』になっていたことに。
その頃。
王都の路地裏では、さらなる無惨な光景が広がっていた。
「……ねえ、リリアーヌ。お腹、空かない?」
カイルが、歯の抜けた口で力なく笑う。
首輪で繋がれた二人は、もはや奴隷商からも「維持費がかかるだけの不良在庫」として、ゴミ捨て場同然の空き家に放置されていた。
「うるさい……黙りなさい、カイル。私は……聖女よ……すぐに、アルが……迎えに……」
リリアーヌは、骨と皮だけになった腕で、地面に落ちた泥だらけのパンの屑を拾い上げようとする。
だが、指先が触れた瞬間、パンは砂のように崩れた。
彼女の周囲では、あらゆる有機物が「時間」を奪われ、腐敗を通り越して風化していた。
(――警告。対象者の負債総額が、魂の価値を上回りました)
(――これより、生存権の『強制差し押さえ』を開始します)
「え……?」
リリアーヌの視界から、色が消えた。
彼女の意識ははっきりしている。だが、自分の身体が、指の先から「透明な砂」になって崩れていくのが分かった。
「いや……いやあああ! 消えたくない! まだ、私は……!」
叫ぼうとした喉も、すでに砂になっていた。
勇者カイルも、魔術師の少女も、ただの灰となって王都の風に吹かれて消えていく。
かつての栄光も、傲慢も、アルに押し付けた『負債』とともに、存在そのものが歴史から抹消されたのだ。
一方、俺の「聖域」には、一人の高貴な来訪者が跪いていた。
「――世界樹の守護者様。どうか、我が国をお救いください」
現れたのは、王都の第一王女、エルゼだった。
彼女は王冠を捨て、質素な白いドレス一枚で、数千人の避難民を連れてここまで逃れてきたのだ。
「私を、この地の肥料にしても構いません。私の寿命をすべて捧げます。ですから、この民たちに……アル様が慈しむこの大地の、末端に連なる許しを……!」
彼女は知っていたのだ。
アルを追い出したことが、王国の死刑宣告であったことを。
そして今、唯一生き残る道は、すべてを捨てて『世界樹の根』に縋ることだけだと。
俺は、エルフたちが守る銀の玉座から、静かに王女を見下ろした。
$$Condition: \text{Surrender of Sovereignty}$$
$$Result: \text{New World Order (Genesis)}$$
「……いいだろう。お前たちが、かつての連中のように『収穫』だけを望まず、この地の『守護』に命を懸けるというのなら」
俺が手をかざすと、王女の身体に黄金の紋章が刻まれる。
それは、世界で唯一、俺から直接「生命」を分け与えられる権利――『聖樹の守護騎士』の証だった。
「感謝いたします……アル様。いいえ、我が主よ」
王女が涙を流して俺の足元に接吻する。
その背後で、かつて「不毛の地」と呼ばれた荒野に、真っ白な大理石の都市が、樹木の成長とともに競り上がっていく。
追放された男は、もはや一人の回復術師ではない。
新時代の神として、世界を塗り替え始めていた。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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