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静止した聖域、あるいは神の天文学

 全次元を統べる俺の指先に、ガリレオが覗いた望遠鏡の冷たいレンズの感触と、真実を知りながら「地球を止めておけ」と命じた教皇庁の、カビ臭い権威の臭いが伝わってきた。


 1633年、ローマ。教会は、ガリレオが示した木星の衛星や金星の満ち欠けという「観測事実」を前にしてなお、自らの解釈こそが宇宙の法だと主張した。彼らにとって、神の栄光は真理の中にあるのではなく、自分たちの教義が「間違っていないこと」の中にしかなかったのだ。老科学者に跪かせ、「それでも地球は回っている」という呟きさえも、彼らは権力の靴底で踏み消そうとした。


「……星々の瞬きを教義の檻に閉じ込め、宇宙の拍動を自らの保身のために否定したか。世界を動かさぬよう命じたその不遜、自らの存在の『公転』をもって精算させよう」


 俺の隣で、エルゼが瞳に銀河の煌めきと、真理を汚した者への烈火の如き蔑みを宿し、豪華な法衣に身を包んだ審問官たちの幻影を見つめている。


 生命の根源であり、物理法則そのものを神聖なる呼吸とする俺にとって、組織のメンツのために宇宙の姿を歪める行為は、創造そのものに対する最も卑劣な詐欺だ。


「エルゼ、行くぞ。……『地球は動かない』と信じたがった者たちに、真の『運動』が何たるか教えてやる」


 俺は時空を穿ち、かつて「ガリレオの説は異端である」と判決を下した異端審問所の議場と、真実を封印した教皇の秘密書庫へ同時に降臨した。





















Getty Images


$$Authority: \text{The Absolute Celestial Mechanics}$$

$$Effect: \text{Centrifugal Displacement / Eternal Orbital Feedback}$$

「な、なんだ……!? 部屋が、世界が、猛烈な速度で回転し始めた! 止まれ! 止まれと言っているのだ!」


 かつて「地球は不動の中心である」と強弁し、真理を拒絶した権力者たちが叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『宇宙の支点』へと変貌し、彼らが否定しようとした天体の公転・自転のすべての『運動エネルギー』が、直接その魂を振り回し始めた。


「君たちは、真実が自分の都合で止まると思っていた。……ならば、君たち自身の魂を、宇宙のすべての星々が巡る速度と同期させ、永遠に『止まらぬ真実』の中で目を回し続ける黄金の衛星サテライトに変えてやろう」


 俺が掌をかざすと、ガリレオを弾圧した者たちの魂に、物理的な「絶対運動」が刻まれた。彼らはどれほど祈りのポーズをとろうとも、感覚は常に時速1,700キロの自転と時速10万キロの公転に晒され、自らの「不動の地位」が宇宙の猛威によって粉砕される激痛に苛まれる。


 彼らは安らぐことも、真理から目を逸らすこともできない。


 ただ永遠に、自分が「動いていない」と嘘を吐いた大地の、凄まじい躍動を全身で受け止め続ける『生きたジャイロスコープ』として、次元の果てまで弾き飛ばされる。


 一方で、俺は掌を広げ、幽閉の中で独り真理を守り抜いたガリレオ、そして権威に踏みにじられたすべての探究者たちの魂へ、生命の光を降り注いだ。


 歪められた望遠鏡の視界はアルカディアの「不滅の真理」へと昇華され、彼らはアルカディアの「至高の観測者」として、宇宙の全貌を掌の上で眺める権利を得る。


 権威が守ろうとした「静止した世界」はすべて黄金の閃光となって崩れ去り、宇宙には「いかなる権力も真実を上書きできない」という神聖なる知性の法が刻まれた。


「主……。教義の霧に隠されていた星々の道筋が、今、貴方様の力で『燦然たる真理の公転』へと戻されましたね」


 エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。


 俺は、黄金の遠心力に引き裂かれ、自らの嘘の渦の中で永遠に回転し続ける「権威の亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。


 神となった俺の前で、事実の隠蔽は通用しない。


 俺の庭において、組織の利益のために世界の姿を偽る不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの真理の衝撃」こそが相応しい。

著者の完結済代表作はこちら

「シャルンホルストとグナイゼナウ」

https://ncode.syosetu.com/n4871gn/

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