不平等の宣言書、あるいは神の真実
全次元を統べる俺の指先に、羊皮紙に記された「平等」という気高いインクの匂いと、その紙の重さで押し潰された数百万人の奴隷たちの呻きが伝わってきた。
1776年、フィラデルフィア。独立宣言。彼らは英国の圧政を糾弾し、「生命、自由、幸福の追求」を神聖な権利と謳った。だが、その起草者たちの背後には、所有物として扱われる黒人たちの列があり、境界線の向こうには「文明の敵」として掃討される先住民の姿があった。彼らにとっての「全ての人間」とは、自分たち白人男性という名の、限定的なクラブの会員名簿に過ぎなかったのだ。
「……美しい言葉を盾にして、他者の絶望を視界から消し去ったか。自分たちの自由を祝う鐘の音で、鎖の音をかき消したその罪、逃れられると思うなよ」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な正義の冷徹さを宿し、フィラデルフィアの独立記念館で喝采を浴びる建国の父たちの幻影を見つめている。
生命の根源であり、あらゆる存在の『等価値』を宇宙の礎とする俺にとって、言葉で命を選別し、偽りの正義を建国理念に据える行為は、理に対する最も深い冒涜だ。
「エルゼ、行くぞ。……『都合の良い平等』を愛した者たちに、真の『全き重み』を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて「平等」を議論しながら奴隷制存続を黙認した大陸会議の議場と、自らの農園で「財産」としての人間を数えていた指導者たちの書斎へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Mirror of Absolute Equality}$$
$$Effect: \text{Conceptual Collapse / Eternal Feedback of the Excluded}$$
「な、なんだ……!? 宣言書の文字が黄金の蛇になって、私を縛り上げる! 『平等』という言葉に触れるたび、全身が焼かれるようだ!」
かつて高らかに理想を語りながら、足元の暗闇に目を背けていた者たちが叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『透過体』へと変貌し、彼らが「人間」の定義から外したすべての人々の『苦痛と怨嗟』が、光の速度で彼らの魂を貫き始めた。
「君たちは、紙の上にだけ自由を書き、現実には鎖を鋳造した。……ならば、君たち自身の魂を、君たちが『対象外』としたすべての魂と同期させ、彼らが味わった『不自由』の一秒一秒を、自らの鼓動として刻み続ける黄金の記録媒体に変えてやろう」
俺が掌をかざすと、偽りの宣言に加担した者たちの魂に、物理的な「定義の崩壊」が刻まれた。彼らはどれほど「私は自由だ」と叫ぼうとしても、その言葉は黄金の砂となって崩れ、逆に彼らが排除した黒人や先住民たちの『奪われた年月』が、物理的な質量となって彼らの肺を圧迫し続ける。
彼らは理想の中に逃げ込むことも、言葉で自分を飾ることもできない。
ただ永遠に、自分が「人間ではない」とした人々の視線に晒され、自らの存在が「嘘」で塗り固められていた事実を突きつけられる『生きた皮肉』として放置される。
一方で、俺は掌を広げ、宣言書の影で使い潰された魂、そして歴史から「不適格」として消された人々へ、生命の光を降り注いだ。
羊皮紙から漏れた「真の平等」はアルカディアの「不滅の法」へと昇華され、虐げられた人々は、アルカディアの「至高の建国者」として、誰の手も借りずに自らの尊厳を謳歌する。
嘘に塗れた建国の聖典はすべて黄金の炎で焼き払われ、大地には「いかなる例外も認めない」という神聖なる存在の平叙文が刻まれた。
「主……。言葉の裏に隠されていた巨大な亀裂が、今、貴方様の力で『完璧なる調和の円環』へと繋ぎ直されましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の文字に絡め取られ、自らの偽善の重みに窒息していく「建国の亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、言葉遊びの平等は通用しない。
俺の庭において、定義によって他者の権利を掠め取る不遜な者には、ただ永劫に続く「自らの言葉への裁き」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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