凍てつく周波数、あるいは神の全域放送
全次元を統べる俺の耳底に、深夜の北大西洋に響く孤独な「SOS」と、それを黙殺した利権のノイズが伝わってきた。
1912年、タイタニック号沈没。マルコーニ社の無線士たちは、他社製の無線機を持つ船からの通信を無視するよう教育されていた。情報の独占、ライバルの排除。波座に消えゆく1500の命よりも、企業のブランドと特許を守ることを優先した「通信王」の冷徹な野心。
「……空を飛ぶ見えない声を、金儲けの檻に閉じ込めたか。命を繋ぐはずの電波を、他者を排除するための壁に変えた罪、その魂に刻み込んでやろう」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な審判の静寂を宿し、氷海に漂う救難信号の残響を見つめている。
生命の根源であり、あらゆる存在の『繋がり』を司る俺にとって、情報を遮断し、助けを求める声を利権で塗りつぶす行為は、宇宙の調和に対する明白な裏切りだ。
「エルゼ、行くぞ。……『独占』を愛した者に、世界中のすべての声が流れ込む恐怖を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて他社の特許を握り潰したマルコーニの豪華な私邸と、独占を謳歌した役員室へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Universal Resonance}$$
$$Effect: \text{Total Signal Influx / Eternal White Noise}$$
「な、なんだこの音は……!? 頭の中に、何万、何億という叫び声が直接流れ込んでくる!」
かつて情報の流れを操作し、巨万の富を築いた者たちが耳を塞いで狂い叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『無限受信機』へと変貌し、遮断していたはずのあらゆる「弱き者の声」が強制的に同期され始めた。
「君たちは、自分たちに都合の良い声だけを選別した。……ならば、君たちが切り捨てたすべての沈黙と、助けを呼ぶすべての絶望を、永遠に脳髄で再生し続けるがいい」
俺が掌をかざすと、独占工作を主導した者たちの魂に、物理的な「情報の飽和」が刻まれた。彼らはどれほど沈黙を望んでも、宇宙に漂うあらゆる苦悩の電波が黄金の杭となって精神を貫き、一秒の安らぎも与えられない。
彼らは拒絶することも、通信を切ることもできない。
ただ永遠に、自分が無視したタイタニックの犠牲者たちの冷たい震えを、自らの鼓動として聞き続ける『生きたアンテナ』として、情報の荒野に放置される。
一方で、俺は掌を広げ、氷海に消えた魂、そして利権のために歴史から消された真の発明者たちの功績へ、生命の光を降り注いだ。
凍てつく海に沈んだSOSはアルカディアの「不滅の共鳴」によって黄金の光となり、犠牲者たちは温かな光の波に乗って、孤独のないアルカディアの「永遠の対話」へと招かれる。
歪められた特許はすべて黄金の塵となって消え去り、世界中の無線は、いかなる障壁も介さない『命を救うための聖なる共鳴』へと書き換えられた。
「主……。利権で寸断された世界が、今、貴方様の力で『魂の全域放送』として一つに繋がりましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、全宇宙のノイズに焼かれ、発狂しながら終わらぬ信号を受信し続ける「通信の亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、情報の囲い込みは通用しない。
俺の庭において、他者の声を遮り、救いの手を利権で阻む不遜な者には、ただ永劫に続く「すべての悲鳴の共鳴」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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