虚飾の地図、あるいは神の国境線
全次元を統べる俺の視界に、巨大なアフリカ大陸の地図を囲み、葉巻の煙を燻らせながら定規を走らせる列強の外交官たちが映り込んだ。
1884年、ベルリン。彼らにとって、アフリカはただの「ケーキ」だった。現地に生きる人々の言葉、数千年の歴史、聖なる部族の境界――そんなものは一切無視され、机上の幾何学によって直線が引かれた。その直線が、家族を引き裂き、仇敵同士を一つの枠に閉じ込め、後の世に血で血を洗う紛争を強制したのだ。
「……一度も土を踏んだことのない者が、紙の上で命の境界を決めたか。定規で引いたその一本の線が、どれほどの命を断ち切る刃になったか、その身に刻んでやろう」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な粛清の光を宿し、その傲慢な会議の議事録を見つめている。
生命の根源であり、魂の絆を尊ぶ俺にとって、大地の主権をゲームの駒のように分かち合う行為は、星の摂理に対する冒涜だ。
「エルゼ、行くぞ。……『線を引く』快感に酔いしれた者たちに、真の境界を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつてアフリカの運命を切り刻んだベルリンの宰相官邸と、それを「文明化」と称えた列強の王族たちの意識へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Fractal of Separation}$$
$$Effect: \text{Anatomical Partition / Perpetual Territorial Conflict of the Soul}$$
「な、なんだこの黄金の定規は……!? 私の身体に勝手に線が引かれ、肉体がバラバラに乖離していく!」
かつて地図の上に誇らしげに線を引いていた者たちが叫ぶ。彼らの肉体には、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『断絶線』が走り、意識と肉体が幾何学的に分割され始めた。
「君たちは、他人の大地を定規で切り分けた。……ならば、君たち自身の存在を、君たちが引いた境界線の数だけ細かく引き裂き、二度と一つに繋がらない『生きたパズル』に変えてやろう」
俺が掌をかざすと、会議を主導した外交官たちの魂に、物理的な「内戦」が刻まれた。彼らの中には、彼らが無視した数千の部族の「奪われた記憶」が宿り、一つの意識の中で無数のアイデンティティが永遠に衝突し合う。
彼らは死ぬことも、自分を取り戻すこともできない。
ただ永遠に、自分が引いた「直線の呪い」によって自らの魂を切り裂かれ続け、自分が引き起こした百年分の戦火の熱を、自らの神経で味わい続ける『生きた国境石』として放置される。
一方で、俺は掌を広げ、不自然な国境線によって引き裂かれたアフリカの大地へ、生命の光を降り注いだ。
定規で引かれた傲慢な線はアルカディアの「不滅の浄化」によって洗い流され、大地からは民族の絆を再結合する『黄金の根源水脈』が湧き上がる。
そこにはもう、ベルリンの会議室で決められた偽りの国境などない。民衆は自らの意志で、誰にも邪魔されない『魂の主権』を取り戻した。
「主……。机上の空論で汚された大陸が、今、貴方様の力で『真なる自由』の呼吸を始めましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、自らの身体が数千に割れ、統合を失ってのたうち回る「列強の亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、人間が勝手に引いた線は無意味だ。
俺の庭において、他者のアイデンティティを定規で切り刻む不遜な者には、ただ永劫に続く「自らの断絶」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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