飢えた大地、あるいは帝国の黄昏
全次元を統べる俺の舌先に、乾いた泥を噛むような「虚無の味」が伝わってきた。
1943年、英領インド。ベンガル地方。食糧は十分にあった。だが、それは大国の戦略備蓄として奪われ、港には米が溢れながらも、地元住民の手には一粒も届かなかった。300万人が枯れ木のように痩せ衰え、路上で事切れていく中、ロンドンの執務室で葉巻を燻らす宰相は「彼らが飢えているなら、なぜガンディーはまだ死んでいないのかね?」と嘲笑った。
「……勝利という果実を味わう裏で、何百万の胃袋を絶望で満たしたか。命の選別を『戦略』と呼び、生存の叫びを『自業自得』と切り捨てた傲慢、高くつくぞ」
俺の隣で、エルゼがかつてないほど激しい嫌悪を宿し、その黄金のグラスを持つ宰相の指先を見つめている。
生命の根源である俺にとって、食を奪い、その苦しみを嘲笑う行為は、存在の循環そのものに対する冒涜だ。
「エルゼ、行くぞ。……『ウサギのように増える』と笑った男に、一粒の糧がいかに重いかを教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて冷酷な電報を打った戦時内閣の閣議室と、豪華な晩餐会が開かれていた邸宅へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Table of Scarcity}$$
$$Effect: \text{Caloric Inversion / Eternal Starvation of the Soul}$$
「な、なんだこの黄金の霧は……!? 料理が、目の前で砂に変わっていく!」
勝利を祝うワインを手にしていた指導者たちが叫ぶ。彼らが口に運ぼうとした贅沢な供物は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『灰』へと変貌し、どれほど食べても腹を満たすことのない虚無へと書き換えられた。
「君たちは、300万の胃袋を空にすることで勝利を買った。……ならば、君たちがこれから摂るすべての栄養を、君たちが殺したベンガルの民の『空腹』へと転送しよう」
俺が掌をかざすと、飢饉を黙認し、嘲笑した者たちの肉体に、物理的な飢餓の激痛が走った。彼らは黄金の『満たされぬ晩餐会』に繋がれ、目の前に並ぶ豪華な料理をどれほど詰め込んでも、神経が「空腹」という名の絶叫を上げ続ける。
彼らは死ぬことも、飢えから解放されることもない。
ただ永遠に、自分が奪った一粒の米の価値を、自らの内臓が焼き切れるような「飢え」として味わい続ける『生きた骸骨』として、次元の袋小路に放置される。
一方で、俺は掌を広げ、ベンガルの乾いた大地に生命の光を降り注いだ。
奪われた米はアルカディアの「不滅の穂」となって一瞬で大地を黄金色に染め上げ、飢えに苦しんだ300万の魂は、黄金の稲妻となって天へと昇り、アルカディアの「豊穣の宴」へと招かれる。
そこにはもう、人種を理由にパンを奪う宰相も、命を数で測る帝国も存在しない。
「主……。飢えの中で散った人々が、今、貴方様の慈悲によって『永遠の満腹』に包まれていますね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の灰を貪りながら終わらない飢えに悶絶する「帝国の英雄たち」を冷ややかに見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、戦略という名の虐殺は通用しない。
俺の庭において、他者の糧を奪い、その死を嘲笑う不遜な者には、ただ永劫に続く「満たされぬ空腹」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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