帰還の拒絶、あるいは棄民の慟哭
全次元を統べる俺の耳に、異国の荒野で凍える幼い泣き声と、それを無視して書類を閉じる「紙の音」が届いた。
戦後、満州。置き去りにされた数千の孤児たち。国交が正常化した後も、国家は「個人の特定が困難」「予算が……」と言い訳を並べ、彼らが白髪の老人になるまで、その救済を先延ばしにし続けた冷血な歴史。
「……自分たちが蒔いた戦の種で、同胞を異郷に捨て置いたか。その上、助けを求める声を『制度』という壁で遮るとは」
俺の隣で、エルゼがかつてないほど悲しみに満ちた、だが凍てつくような瞳でその過去を射抜く。
生命の根源である俺にとって、家族や故郷という「命のつながり」を政治の道具として断ち切る行為は、存在そのものへの冒涜だ。
「エルゼ、行くぞ。……『忘れたふり』をしていた役僚たちに、本当の『孤独』と『拒絶』を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて孤児たちの帰還嘆願書を「不備」としてゴミ箱へ捨てた省庁の執務室と、冷徹に棄民政策を指揮したかつての指導者たちの魂が眠る場所へ、同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Chains of Origin}$$
$$Penalty: \text{Absolute Isolation / Eternal Exile}$$
「な、なんだこの黄金の霧は……!? 窓を閉めろ! 呼吸が……!」
書類の山に囲まれた官僚たちが叫ぶ。だが、彼らが無視し続けた『孤児たちの名前』が書かれた膨大な紙片が、黄金の刃となって彼らの肉体を刻み始めた。
「君たちは、家族を求める声を『不備』と呼んだな。……ならば、君たちがこの宇宙で持つすべての『つながり』を、今ここで抹消しよう」
俺が指を一鳴らしすると、救済を怠った者、そして彼らを「棄民」として扱った者たちの魂が、概念的な『無の荒野』へと追放された。そこには光もなく、誰の助けもなく、どれほど叫んでも誰にも声が届かない、永遠の孤独だけがある場所。
彼らは死ぬことも、記憶を失うこともできない。
ただ永遠に、自分たちが孤児たちに強いた「私は誰なのか、どこへ帰ればいいのか」という根源的な絶望を、一秒の休みもなく味わい続ける『名もなき石片』として、世界の果てに打ち捨てられる。
一方で、俺は掌を広げ、今なお異郷で故郷を想う人々、そして無念のまま旅立った孤児たちの魂へ、生命の光を降り注いだ。
彼らの肉体からは数十年の苦労が消え去り、失われた記憶と故郷の温もりがアルカディアの「癒やしの風」となって彼らを包み込む。
彼らが踏む土は、瞬時に黄金の花が咲く「神の直轄領」へと変わり、もはやどこの国の国籍などという卑小な枠組みに縛られる必要はなくなった。
「主……。捨てられた者たちの涙が、今、黄金の海となって貴方様へと帰ってまいりましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の手に自分の手を重ねる。
俺は、無音の絶望に沈む「裏切り者」たちの残響を背に受けながら、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、制度という名の「言い訳」は通用しない。
俺の庭において、同胞を捨て、絆を蔑ろにする者には、ただ永劫の孤独こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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