謀略の終焉、あるいはスタジアムの鎮魂歌
全次元を統べる俺の耳に、数千人の悲鳴と、それをかき消そうとする軍靴の音が届いた。
1973年、9月。南米チリ。民主的に選ばれた指導者を暴力で引きずり下ろし、自由を叫ぶ市民をスタジアムに詰め込んで虐殺した、血塗られたクーデターの記憶。そして、その影で糸を引き、独裁者の手を引いた大国の情報機関。
「……自由を掲げる国が、他国の自由を金と銃で買い叩いたか。影で踊るのが好きなら、永遠にその影の中に閉じ込めてやろう」
俺の隣で、エルゼが軽蔑の眼差しをその暗黒の歴史に向ける。
生命の根源である俺にとって、民衆の「意志」という名の生命の輝きを、謀略という名の汚泥で塗りつぶす行為は、断じて看過できぬ大罪だ。
「エルゼ、行くぞ。……『自由を破壊した自由の国』に、真の民主を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて拷問と虐殺の場となったサンティアゴのスタジアムと、その戦果を冷酷に報告し合っていたワシントンの密室へ、同時に降臨した。
$$Authority: \text{Voice of the Oppressed}$$
$$Effect: \text{Conspiracy Inversion / Absolute Democracy}$$
「な、なんだこの光は!? 停電か? バックアップを回せ!」
密室で謀略の地図を広げていた工作員たちが叫ぶ。だが、彼らがモニターで見つめていた「標的」たちの写真は、俺が指を一鳴らしした瞬間に実体化し、彼らの周囲を埋め尽くした。
「君たちは、暗闇の中で他者の運命を弄ぶのを好んだな。……ならば、君たちが奪った数万の『声』に、今度は君たちが永遠に糾弾されるがいい」
俺が掌をかざすと、スタジアムで命を奪われたギター弾き、詩人、そして名もなき市民たちの魂が、黄金の旋律となって溢れ出した。その音波は物理的な衝撃波となり、軍事独裁を指揮した将軍たちと、それを支援した工作員たちの肉体を「沈黙の檻」へと封じ込める。
彼らは死ぬことも、耳を塞ぐこともできない。
ただ永遠に、自分が踏みにじった民衆の歌声を至近距離で浴び続け、その歌詞の一つひとつが「針」となって魂を突き刺す『生きた標的』として、歴史の深淵に晒される。
一方で、俺は血に染まったスタジアムの芝生を撫でた。
無惨な処刑場だった場所にはアルカディアの「癒やしの花」が咲き乱れ、独裁者の圧政下で凍りついていた国民の心は、世界樹の根がもたらす「真の自由」によって解き放たれていく。
アンデス山脈の頂からは、どんな謀略も届かない『黄金の守護』が南米全土を包み込んだ。
「主……。これで、影に葬られた真実が、永遠に枯れない歌となりましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩に頭を預ける。
俺は、黄金の灯籠の中で絶望の歌を聴き続ける「謀略者」たちの叫びを背に受けながら、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、不当な支配は崩れ、隠された暴力は白日の下に晒される。
俺の庭において、民衆の希望を「駒」として扱う不遜な者には、ただ永劫の孤独と歌声の罰こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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