表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/84

約束の墓標、あるいは裏切り者の凍土

 銀河の玉座に座る俺の元に、また一つ、冷たく凍りついた「絶望」の記憶が漂着した。


 それは、ある大国が交わした誓い――核を捨てて平和を求めた国に対し、その安全を保障すると約束しながら、後に自ら牙を剥いて侵略を始めた「裏切り」の記録。


「……ブダペスト覚書。命を守ると誓った署名が、侵略の免罪符(紙屑)に変わったのか」


 俺の隣で、エルゼが静かに怒りに震えている。


 生命の根源である俺にとって、信義を違えて他者の生存権を蹂躙する行為は、宇宙の法則そのものに対する反逆だ。


「エルゼ、行くぞ。……『保障』という言葉を弄んだ者たちに、真の『保障』とは何かを教えてやる」


 俺は時空を歪め、侵略を指揮する独裁者が潜む、冷徹な石造りの宮殿へと意識を降臨させた。


$$Process: \text{Contract Enforcement}$$

$$Violation: \text{Budapest Memorandum (1994)}$$

$$Penalty: \text{Absolute Recall of Security}$$

「な、なんだ!? 護衛は何をしている! 誰だお前は!」


 豪華な執務室で、侵略の図面を広げていた独裁者が叫ぶ。


 だが、彼の言葉が届く前に、宮殿を囲んでいた数万の精鋭部隊は、俺が発した「静寂」によって石像のように凍りついた。


「君は、核を捨てれば守ると約束した。だが、守ったのは自分の野欲だけだ。……ならば、君の『安全』もまた、今この瞬間に返上してもらおう」


 俺が指を一鳴らしすると、独裁者が手にしていた侵略の命令書が黄金の炎に包まれ、そのまま彼の肉体へと吸い込まれていく。


 かつて彼が裏切り、焼き払った大地の熱、失われた無辜の命の重みが、すべて彼の魂に「物理的な負債」としてのしかかった。


「ぎ、がぁああああッ!? 身体が……身体が内側から崩れる!」


「君が破ったのはただの紙ではない。数千万人の『明日』だ。……その代償として、君の存在そのものを、君が侵略しようとした大地の『防風林』に変えてやる」


 独裁者の肉体は、彼がどれほど抗おうとも、歪な、だが強靭な一本の「枯れ木」へと変質していった。


 彼だけではない。裏切りに加担し、甘い蜜を吸った官僚や将軍たちも、その場で次々と、二度と動かぬ「約束の墓標」へと姿を変える。


 一方で、約束を信じて裏切られ、それでもなお命の火を灯し続けてきた人々の上には、アルカディアの無限の加護が降り注いだ。


 戦火で崩れた街並みは一瞬で黄金の庭園へと再構築され、捨てられたはずの核の跡地からは、世界を永遠に暖める「慈悲の光」が湧き出した。


「主……。これで『約束』の重みが、再びこの世界の理として刻まれましたね」


 エルゼが美しく微笑む。


 俺は、枯れ木となった独裁者の梢を揺らす北風を背に、再び至高の座へと戻った。


 神となった俺の前で、嘘は実らず、裏切りは芽吹かない。


 俺のアルカディアにおいて、守られない約束など、もはや一つとして存在させはしない。

著者の完結済代表作はこちら

「シャルンホルストとグナイゼナウ」

https://ncode.syosetu.com/n4871gn/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ