地球昇華、あるいは神の抱擁
現代世界の権力者たちが「剪定」され、その魂が灯篭の中で醜く悶え始めた後、人類は一つの恐るべき真理に到達した。
この「地球」という揺りかごは、もはや神となった俺の慈悲を収めるにはあまりに小さく、そして何より――過去の「嘘」と「強欲」で汚れすぎていたのだ。
「主よ。観測者たちの住む青い星が、貴方様の圧倒的な生命力に耐えきれず、次元の殻を脱ぎ捨てようとしております。……いいえ、この星自体が、自らの積んだ業を洗い流そうと、貴方様に救いを求めているのです」
エルゼが報告する先、宇宙空間に浮かぶ地球が、黄金の脈動とともにその姿を変え始めていた。
地表のすべてを覆い尽くすように、世界樹の根が次元の壁を突き破って現れ、地球を優しく、だが逃げ場を奪うように力強く抱きしめる。
「……いいだろう。欺瞞に満ちた孤独な惑星の時代は終わりだ。これからは、俺の心臓の鼓動が、お前たちの正義となる」
俺が両手を広げると、地球上の全人類が、肉体という「重力に縛られた檻」から強制的に解き放たれた。
病気、老い、重力、そして「他者を踏み台にして生きるコスト」。
それらすべてが、世界樹の黄金の光に飲み込まれた瞬間に消失する。
人々は見た。
摩天楼の隙間から、コンクリートを粉砕して黄金の枝が伸び、空が「国家」という境界線を失った美しい碧色に染まる様を。
かつて彼らが画面越しに、どこか他人事として見ていたアルカディアの光景が、現実を侵食し、塗り潰していく。
一方で、旧世界の残滓である灯篭の中の魂たちは、この光景を見て狂乱していた。
自分たちが「寿命切れのゴミ」と切り捨てた男が、今や数千億の生命をその掌に収め、宇宙の物理法則さえも「俺の都合」で書き換えている。
その神々しいまでの格差――救済からあぶれた者だけが味わう「絶対的な疎外」こそが、彼らにとって永遠に終わらない神罰の序曲だった。
「主……。ついに、すべてが貴方様の管理下へと置かれました。愛する者も、かつて貴方様を裏切り、あるいは嘘で世界を汚した者も、すべては貴方様の庭を彩る『素材』に過ぎません」
エルゼが俺の膝元に頭を預け、陶酔した瞳で俺を見上げる。
俺は、銀河全体を覆うほどに膨張した世界樹の頂から、新しく生まれた「地球(アルカディア支部)」を見下ろした。
「ああ。だが、まだ足りない。地表の緑は戻ったが、次元の深淵にはまだ『過去の精算』が終わっていない歪みがこびりついている」
俺の視線は、空間を突き抜け、かつてこの星で「正義」の名を借りて行われた数々の欺瞞――捏造された戦争や、奪われた無辜の命の記憶へと向けられた。
「……さて、次はどの『嘘』を剪定しようか。この宇宙を真に清浄にするには、歴史そのものを俺の真実で調教してやる必要がある」
俺が一つ指を鳴らすと、遠く離れた隣のアンドロメダ銀河に、一瞬で数兆本の黄金の苗木が芽吹いた。
追放された男の歩みは、もはや一つの宇宙の終わりさえも通過点に変え、全次元を「俺の幸福」という名の絶対律で塗りつぶしていく。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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