世界一贅沢な、下働き(オーディション)
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「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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アルカディアの謁見の間には、常識では考えられない光景が広がっていた。
並んでいるのは、世界各国の王族、あるいは伝説級の魔術師、神子といった「世界の主役」たちだ。
だが、彼女たちの表情に傲慢さはない。あるのは、面接を待つ受験生のような、痛いほどの緊張感だった。
「――次。東方諸国の『龍神の巫女』、サクヤ殿」
エルゼが事務的に名前を呼ぶ。
現れたのは、一国を導く神託を授かるとされる絶世の美女。彼女は俺の前に進み出ると、ためらうことなくその場に跪き、深々と頭を下げた。
「我が一族に伝わる『龍の宝玉』をすべてアル様に捧げます。……どうか、この庭の隅で、枯れ葉を掃く係として私を雇っていただけないでしょうか」
「……巫女が、国を捨ててまで掃き掃除か?」
俺が呆れて問いかけると、彼女は真剣な眼差しで答えた。
「はい。貴方様の歩く場所を清めることこそが、龍の加護を受けるよりも遥かに尊い救いであると、魂が叫んでいるのです」
(――解析完了。彼女の忠誠度は、すでに計測限界値($MAX$)に達しています)
(――主、この者を雇用すれば、東方の霊脈も自動的に支配下に入りますが?)
脳内の声が事務的に利点を告げる。
かつて、旧王国のリリアーヌたちは俺を「ただのバッテリー」としか思っていなかった。だが今、ここにいる者たちは、俺の指先から溢れる「生命の雫」一滴に、国を丸ごと売る価値があると本能で察している。
「次。北海連合の『戦乙女』、ヒルデガード殿」
次に現れたのは、巨大な戦斧を背負った銀髪の女戦士。彼女は自分の武器を俺の足元に置くと、その場で自らの首輪を差し出した。
「アル様。我が軍勢三万は、すでに貴方様の国の『生け垣』として整列しております。……私は、貴方様の寝室の『盾』になれれば、それ以上の名誉はありません」
もはや「オーディション」ではない。
世界がいかに俺という『心臓』に縋り付き、自分たちの価値を認めてもらおうとするかの、必死のプレゼン大会と化していた。
俺を捨てた旧王国の連中が見れば、発狂するような光景だろう。
彼らがゴミのように捨てた俺は、今や、世界の全財産を積んでも「掃き掃除の権利」すら買えないほどの絶対存在なのだ。
「……エルゼ。適当に選べ。ただし、俺の睡眠を邪魔しない者だけだ」
俺が椅子から立ち上がると、居並ぶ乙女たちが一斉に、波が引くようにひれ伏した。
「御意に、我が主。……皆様、聞こえましたか? 主は『邪魔をしない者』とおっしゃいました。まずは、その重すぎる財宝をすべて捨ててから、裸足でこの庭を千周してきてください」
エルゼの無慈悲な命令に、他国の姫君たちは、絶望するどころか「試練をありがとうございます!」と、至福の表情で庭へ駆け出していく。
世界樹の梢を揺らす風が心地いい。
俺は、彼女たちの熱狂を背に受けながら、新しく芽吹いた世界樹の苗木に、静かに「明日」の定義を書き込み始めた。




