39.恵美は手術台に乗せられていた-この情報は……-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
恵美は全裸で手術台に乗せられていた。
これから開頭手術を受けるのだ。
――これで、良かったんだよね。私が仲介に入って、三人で一緒に戦う。それでいいんだよね。
恵美はずっとそんな事を考えていた。結論が出るものではないのは分かっている。いや、結論の出る話などというのは、本当は数えるくらいしかないのかもしれない。
「博士、何か言い残すことはありますか? おそらくこれがご自身の声で話せる最後の機会ですが」
オペに随伴している女性、恵美と一緒の研究室で彼女の下で働いているその女性がICレコーダーを手に恵美に話しかける。
「そう、だよね。この体とはこれでサヨナラなんだよね。じゃあ」
そう言って、
「私はこれから開頭手術を受け、生体コンピューターと融合してカズ博士の搭乗予定のレイドライバーのサブプロセッサーになります。ですが、それは研究の終わりを意味しているものではありません。実機でのテストデーターの蓄積の他に、考え付いた事や改良点を研究所の人たちに引き続きテストしてもらうつもりでいます」
恵美は視線を泳がせる。
言葉が切れたせいか、研究員が[ん?]顔を向けると、
「これは、カズ博士がくじけそうなときに聞いてください」
なかなか次の言葉が出てこない。
だが、意を決して、
「私はカズくんの事が好きです。この気持ちは今も変わらない。そして、私の全力で彼、そして千歳ちゃんを護ります」
それ以上言葉が続かないのを見計らった看護婦たちが、
「よろしいですか?」
と恵美に聞く。その問いに[はい、お願いします]と答えたあと、
「ではこれから始めたいと思います。麻酔を」
と言われて酸素マスクが顔にあてられ、点滴の針が刺さる痛みをチクリと感じて数十秒、それが恵美の覚えている最期だった。
次に起きた時には違和感を感じていた。
レイドライバーに搭載されているため、そのカメラを通じて視覚情報は入ってくる。嗅覚についてもセンサーが搭載されているので、これも感じることが出来る。聴覚、触覚も同様である。だが、その体の大きさに慣れていないのだ。
それに独特の[間]があるのも事実である。やはり肌で感じる事の重要性、といったところか。
――自我が残っているサブプロセッサーはこんな感じなんだね。
「やぁ、おはよう。調子はどう?」
カズだ。恵美がカメラを回すと白衣姿の彼がいた。
「ああ、あまり無理はしないでいいよ。何せ初めてだからね。実は、オレもサブプロセッサーになった人に話しかけるのは初めてなんだ。コミュニケーションはいつも他の人がやっていたから。でも、この機体は」
「私たちの機体だもんね」
スピーカー越しに声が出る。
「そう。誰にも渡さない」
その声は決意に満ちていた。政府でもおいそれと口出しできない研究所の所長、それが搭乗する機体。一見すると何でも出来そうな気がするが、制約もある。
一番痛いのはコアユニットとの会話が禁止されている事だ。
こちらから問いかける事も、向こうから意思表示をする事も禁止されている。もしそれが判明したら、その時点でコアユニットなら殺処分、パイロットなら被検体扱いか、最悪は殺処分である。それは政府も、カズが相手でも譲らなかった。その代わりのサブプロセッサーへのコミュニケーションの許可、である。これにはあっさりOKが出た。もちろん、恵美がなった事も伝えてある。政府からは「実験の立案などにも積極的に参加してもらうように」とまで言われたのだ。
サブプロセッサーになった恵美が、無いはずの体の感覚がおかしいと感じたのはもう一つ理由がある。彼女はそれに早々に気が付く事になる。
「この情報は……」
だがそこまで言って黙る。
そう、その情報というのがコアユニットからのフィードバックである。具体的には体調や感情、ある程度の意思まで伝わってくるのだ。笑っている、怒っている、悲しんでいる、傷がっている、そして何か伝えたい事がある、更にはその内容も。
だが、これは決して口に出してはならない。サブプロセッサーである彼女か内々で処理しないといけない事なのだ。
――カズ君、ゴメンね。これは話せない内容なんだ。
「うん、それ以上は聞かないよ」
カズもそれが分かっているらしく、それ以上は聞いてこない。
「そうだよね、ゴメンね」
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