26.コアユニット用のスーツを使う-大丈夫。あたしがなるから-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
だが、このままにしておくわけにはいかない。それは皮膚呼吸という点からもそうだが、熱傷を負った傷(熱傷創)に細菌が繁殖して、その細菌が全身に回って生じる敗血症による死亡の可能性があるからだ。
「千歳と、彼女と二人で話をさせてもらえませんか?」
カズが二人に言うと、
「分かりました。どれくらいの時間が必要ですが?」
それはそうだ、治療を継続しないといけないのだから。それに今、千歳が置かれている状態は、早く打開策を見つけないと生命の危機があるのだ。
「十五……いや十分、もらえませんか? そこで、彼女とこれからについて話したいと思います」
「分かりました。終わったら呼んでください」
医師とクリスチャンの二人が出ていき、看護師も一礼すると席を外した。残ったのは千歳とカズだけである。
「いま、人払いをしてもらった。俺だけしかいない。みんなと協議をした結果、コアユニット用のスーツを使うのがきみの命を繋げられる一番の方法みたいだ。だが……」
それ以上の言葉が出て来ない。その沈黙を、
「コアユニット用のスーツなら生き残れるのはあたしにも、分かるよ。腕も、なくなっちゃったしね」
「だが……」
「いいよ、大丈夫。あたしがなるから、実験、続けて?」
千歳は確かにそう言ったのだ。
「いいのか? コアユニットにはまだ未知の問題も隠れていると思うが」
「いいよ、大丈夫。あたしがなるから」
千歳はそう繰り返したのだ。
しばらくの沈黙。カズはその間ずっと同じ思考と同じ結論の間で揺れていた。
「そしたら、きみが所長になって」
所長になるには二つの方法がある。
一つは実力で成果を上げる事。これは千歳がなった方法だ。彼女は本当に素晴らしい研究結果を出し、クリスチャンに代わって所長になったのだから。
もう一つの方法。それは現所長からの推薦である。優れた研究者であると所長が判断した場合、その人に座を譲る事が出来るのだ。
「いいのか? 一度コアユニットになってしまえば、ただの一被検体になってしまうんだぞ。そんな事」
「そうしたら、さ、きみがこの実験を主導してくれない、かな? きみの言う事なら何でも聞くよ」
言う事を聞く、千歳は確かにそう言ったのだ。
――俺は、俺は千歳を幸せに出来なかった。それどころかあまつさえ被検体にするなんて。他に道はないのか……。
だが、いくらカズが考えを巡らせても答えは、一番理想的な答えはそこに行きついてしまうのだ。
「本当にいいんだな? 一度、コアユニットになってしまったら、もう後戻りは出来ないんだぞ」
念を押すが、
「いいよ、あたしがなるから」
「分かった。きみを被検体として当面は生存を第一に考えるよ。所長の件も了解だ。そして、俺はきみが乗せられるロボットのパイロットになるよ。きみのそばにいたいんだ。たとえそれがコンタクトを禁止されても、きみの命だけは、誰にも触らせない」
原則、パイロットとコアユニットのコンタクトは禁止されている。コアユニットはパイロットからの命令だけをロボットに伝える、その為だけに存在していて、パイロットへのフィードバックはサブプロセッサーを介して、感覚的にしか送れない。パイロットとコアユニットとの間に、特にコアユニットからパイロットへの意思疎通に言語は存在してはならないのだ。この原則は千歳とカズの場合でも覆らないだろう。
「あの実験、あたしときみとの間でやるんだね」
千歳の持つ理論だ。
「ああ、実は予備実験はしてあるんだ。本当に子供が出来たらどうなんだろうってね。幸いにも俺ときみの間には[子供]は作れるみたいだ」
特定の人物の間でしかペアリングが出来ない現段階において、カズにとっては朗報だ。まだいくばくかの時間は少なくとも千歳と一緒にいられるのだから。
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