19.生体応用工学研究所という場所-三人とも目つきが-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
千歳と恵美、カズの三人は卒業後、それぞれ研究職に就いていた。そう、三人がいるここ生体応用工学研究所という場所は、生体と機械をいかに融合するか、という研究をしている施設だ。
そこで千歳は、応用生命学を専攻していた知識を生かして、生体とコンピューターとをいかに無理なく相互間の情報伝達をするか、という研究をしていた。
カズは薬学部の出だが、途中から機械生体工学に興味を持つようになっていた。そこで、主に人体から発せられた信号で機械をいかに上手く操れるか、どんな構造にすれば動かしやすいか、という研究に携わっていた。
恵美は、生理学を専攻していた。その経験を応用して性器とコンピューターの相互リンクをさせて機械を操る一助にするという研究を、さらに機械につながれた被検体のバイタルの安定のさせ方を研究していた。また、同時に特定の臓器をターゲットとした薬の開発にも関わっていた。
それぞれの仕事は前述の通り、とても常人では耐えられそうにないものだった。
被検体となる人を[ヒト]として扱わず、まるで実験動物か、人形か玩具のように扱う。必要ならば生きたまま麻酔もせずに体を分解したり、機械を埋め込んだり。千歳が言っていた通り、あの叫び声やうめき声は一度耳にすると簡単には離れないだろう。
それがほとんど毎日である。
そして、時には他人同士の体を部分的に入れ替えたり、別の生き物の組織を移植したりと、まさしく[生体実験]をしているのだ。
そうやって何人もの命を奪い、蹂躙していった。
カズが研究所に勤めて三年が過ぎたときには、三人とも目つきが変わっていた。
「空いてる?」
「お疲れ様。珍しいね、三人が同じ時間に食事が摂れるなんて」
恵美が、カズと千歳がついているテーブルに食事の乗ったトレイを持って近付いて来る。
カズたちは恵美より一足早く食事についていた。とは言っても彼らも今しがた来たばかりなのだが。
「ちょうどあたしたちも来たところ。一緒に食べよっ」
そう言って千歳が隣の席に置いてあったタブレットをカズのほうに渡す。
恵美は[ありがとう]と言いながら千歳の隣に座る。
「どう、研究? って食事時にするものじゃあないよね。ゴメンね」
恵美が途中までした会話を引っ込めようとするが、
「いや、大丈夫だよ。それに三人ですり合わせも必要でしょ?」
千歳の言うとおりだ。カズと恵美は三年、千歳は五年ここにいるが、三人とも優れた研究成果を出しつつあり、研究所での立場も上のほうに上がっていた。最近は三人とも皆が実験を主導する立場にある。
この研究所はまさしく成果がすべてを決める。逆に言うと成果の挙げられないものは、いつまでも平のままなのだ。
それでも[平のまま]だけならどれだけいいか。その[平の]研究員の何名かはすでに内密にではあるが被検体として近々使われる予定なのだ。例え身内の職員とはいえ実験に駆り出される、ここはそんな施設である。
「これを見てくれる?」
千歳はタブレットを二人に見えるようにテーブルに置く。画面には人体のモデル、と思われる人型の図と、箱のようなものが線で繋がれている様子が映っている。
「まぁ、知っての通りウチでは軍事転用出来るロボットの操縦方法、それに開発をそれぞれ手掛けてるんだけど、今度は[被検体]を使っていよいよ実用可能な試験をする予定なの。で、これがその具体案なんだけど」
そう言うとタブレットを操作する。すると詳しい内容が出て来た。
それには生きたままの被検体から子宮を引きずり出してカズの考案した機械と繋ぎ、それを様々な条件下で操作させる、という実験と、男の被検体のペニスを一部切除して同じくインターフェイスを繋ぎ、同様の試験をさせるという実験、同様の操作を体に細工せず普通にさせるという案が示されていた。
操縦系統に生理的なものを組み込んで、ただ単純に操作しただけとの違いがあるか、独特の[感覚]を反映できないか、そんな狙いがある。更に、男女差が出るのかという確認の意味合いも持つ。もしも差が出るようなら、そちらの性を優先させた実験に切り替える必要がある為だ。
これの基礎理論になっているのは恵美の研究である。
「そっかぁ、もうそんな段階になっているんだね。これって先週の上級ミーティングで出たやつなの?」
恵美が疑問を口にすると、
「そう、五十六号被検体とウチのあの子」
声を潜めながら千歳が答える。
「そろそろ身内からも出す段階になって来てるんだね。そう言えば、千歳ちゃんのやってる生体コンピューターのほうはどんな感じなの?」
「それは今週にでもやる予定。予備試験で成績が良かった六十号の女の子、分かる? 髪の毛の短い、まだ入って来たばかりの被検体」
[ああ、結構かわいいあの子ね]と恵美が相槌をうつ。
「あの子なら多分、前頭葉近くに埋め込んでも大丈夫だと思う」
「それって意識はどうなるの?」
脳に機械を取り付けるのだ、それは気になるだろう。
「意識はなくなる、と思う。今回の施術でかなり奥まで侵食させる予定だから」
そんな会話をしながら三人とも[普通に]食事をしていた。
少し前までは考えられない光景だ。
まるで無垢な子供がトンボの羽をむしるように。生きたままカエルの足を切って電極を埋め込んで動かすように。誰一人として[かわいそうだ]とか[そんな事出来ない]などとは言わない。むしろ、その表情はその眼差しに反して明るい。
誰もが少しずつ、着実に狂っていた。
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