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18.二人の傍に、いさせてくれないかな?-三人そろって同じ道を歩む事になる-

全47話予定です


日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)

「うん、何だろう?」


 カズが一歩引くと、


「そちらからどうぞ」


 と返って来た。


「多分、同じ内容だと思うから、襟坂さんからでいいよ」


 再度そう促す。


 恵美は[そう?]と続けたあと、


「実は就職の件なんだけど、ってこの時期だから分かるよね。和也くんは例の研究所に行くつもりなの?」


「ああ、生体応用工学研究所でしょ? そのつもりだよ。それでね、俺からも話があるんだけど」


 カズは、恵美が言葉を続けない事を確認してから、


「もし、少しでも研究所に行く事に不安に思っているなら悪い事は言わない、別の道を考えたほうがいい」


「それは……」


 とまで言葉が出て止まる。


 しばらくの沈黙。だが、先に口を開いたのは、


「うん、私も色々と調べたよ。それでも、和也くんが行くなら私もそこに行きたい」


 恵美だ。


「襟坂さんはどこまで知っているの?」


 ――まずはそれを聞かないと。


「私も、大学院に入ってからかな、友達に聞いたりしてみたんだけど」


 と前置いたあと、


「まず、半官半民の施設、って言っても事実上は政府の監視下にあるところだって事。それから、軍がかなり関与しているって事。そして、人体実験をしているって事も公然の秘密になっているみたい。だけど、それを口にした人はみんな姿を消してるってのも言われてたな」


 そう言いながら飲むでもなくペットボトルをいじる。その姿は、その声は少しだけ震えていた。


「そこまで知ってるなら話は早い。俺が伝えたかったのもそれなんだ。付け足すなら、一度入ったら辞めさせてもらえないって事。それを踏まえてもう一度改めて聞くけど、襟坂さんはこれからどうする?」


「もしかしたら迷惑かな?」


 ラグなしで帰って来たその言葉に、カズは反応出来ないでいた。


 ――確かに、このルートに引き込んだのは、俺だ。だが、本当にそれでいいのか? そんな危ない橋を渡るような事をさせていいのか?


 恵美を巻き込んだら、果たして自分はその責任が取れるのだろうか。


[――いくら相手が好意を寄せていてもそこは断るべきなんじゃあないか?――]


 今更のように、あの時おやじに言われた言葉が頭をよぎる。


 そんな沈黙を、


「あの時ね、研究室を決める時、大学院に進学する時、その進路を選ぶときから分かっていたの。和也くんが私に気を遣ってくれているって。少しでも一緒にいられるようにって。もしかしたら別の、何か考えがあるのかもしれないけど」


 そう破って、


「私はそれでも和也くんに付いていきたい。それは自分でも良くない事だって分かってる。本当なら別の道に進むべきなんだろうって。でも、でもね、それでも一緒にいたい。もちろん、和也くんには千歳ちゃんがいるんだ、きみの彼女さんになりたい訳じゃあない、ただ、二人の傍に、いさせてくれないかな?」


 震える声で、震える体でカズに向く。その言葉は彼にとってとても重く感じられた。


 カズは半分、恵美を利用するような事をしたのだ。だが、それに気が付かない彼女ではない事も分かっている。


 恵美は人の、心の機微に関しては敏感なほうだとカズは思う。それは大学生活を通じてよく理解できた。六人の和が崩れないように常に気を遣っている、それはカズにも見て取れたのだから。


 そんな恵美が、カズの言うように大学院まで通って、それでもなお[一緒にいたい]と言ってくれているのだ。


「もう一度聞くけど、人為実験をしている施設なんだよ。そこは大丈夫?」


「和也くんは大丈夫なの?」


 逆に聞かれる。


 それに対するカズの反応は、


「俺は、人体実験については賛成派なんだ。それには色々な理由から一言では言えないんだけど。多分、それについては受け入れられると思う。その上でもう一度聞くけど、襟坂さんは人体実験については大丈夫かな?」


 再度尋ねる。


 しばらくの沈黙。だが、カズもせかしたりはしない。


 口を開いたのは、


「受け入れられるかどうかは分からない。でも、受け入れてみるよ。だから、それでもきみの傍に、いさせてくれないかな?」


 同じ言葉を繰り返したのだ。


 ――決めた。きみのその言葉を、受け取るよ。


「俺も、襟坂さんを自分の道に引き込むのは良くない事だって分かってる。だけど、襟坂さんは一緒に付いて来てくれるって言ってくれたんだ。それはとてもありがたい事なんだ。まずはそれに礼を言わせて」


 そう区切ると、


「本当にありがとう、そしてこれからもよろしく。それじゃあ、この道で行くって事でいいんだね?」


 最後の念押しをする。


「そう、させてくれないかな」


 その声は震えているが、しっかりとしたもののように聞こえた。


「分かった。もしもの時は出来る限りきみの事も守るよ。千歳にもきみの意思を伝えてみる。そうすれば入りやすいと思うんだ。千歳の話だと、彼女が就職してから今まで誰も入ってきていないらしいんだ。多分、噂が噂を呼んでるんだと思う」


 実際、件の研究所は人気がない。いや、人気がないというよりは敬遠されているといったほうが正しいかも知れない。実際、求人広告も最近は出ていないのが実情なのだ。かといって募集を止めている訳でもない、というのも伝わっている話だ。向こうだって優秀な研究者は一人でも欲しいというのは本音だろう。


「本当は、もっと早く千歳ちゃんに相談出来ていれば良かったんだけど、なかなか言い出せなくて。ゴメンね、こまで引きずっちゃって」


 カズと千歳の間に入るような事はしたくないが、就職という、進路を決める時期は刻々と近付いている。そんな中のカズへの相談だったのだろう。


「大丈夫。これで道は見えたよ。三人で研究を進めていこう」


 こうしてカズたちは三人そろって同じ道を歩む事になる。


全47話予定です



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