14.就職先、どこに行くつもりなの?-人体実験をやっている、と?-
全47話予定です
「ねぇ、カズ。大学院も今年で卒業でしょ? 就職先、どこに行くつもりなの?」
髪の毛の手入れを終えて化粧水を打ちながら千歳がカズに問う。
今さっきまで、風呂に一緒に入っていたところだ。カズは少しだけ千歳よりあとに風呂から上がった。今日は少し考え事をしていたからだ。
もう一年経つのか、あの日おやじと食事をしに行って進路を聞かれた事が今更のように頭の中を巡っていた。
もちろん別れてからしばらくは考えていたのではあるが、出来るだけ考えないように、今はなるべく自分の研究に専念するようにしていた。だが、そろそろ就活のシーズンである。巷では明日から事実上の就活が解禁される。
そんな、いつもと違う雰囲気を察したのか、
「ウチ、来るの?」
と続けて来た。
「あ、あぁ、それなんだよ。ちょうど今考えていたところなんだ」
カズは千歳のストレートな問いに少し戸惑いながらもそう答えた。彼はもちろん[生体応用工学研究所]に行くつもりでいた。
だが、問題なのは恵美だ。彼女を連れて行っていいものなのか、今更ながらに考えていたのだ。
確かに、恵美に大学院に行くように勧めたのはまぎれもない、カズだ。それに、彼女に生理学を進めたのはそもそも彼なのだ。それにはもちろん、件の研究所に就職して研究を続ける、という彼の思惑もある。その為には件の研究所で必要とされている学科の人間でなければならない。
そういう意味ではカズも恵美も適合している。
逆に言えば[そうなってもいいように]、いや[そうなるように]カズは恵美に生理学を勧めたのだ。知り合いは、少ないより多いほうが何かと便利だ、そう考えてしまう自分がカズの中にはいた。
「もし、まだ迷っているようなら別の道でもいいんじゃあないかな」
だが、カズのそんな考えに反して千歳の口からは意外な言葉が出た。
いや、妥当な言葉、というべきかも知れない。ここ最近の千歳はどこか浮かない、何か思っている事があるような感じなのだ。それは恐らく先に就職した件の施設の事なのだろう、と推測は出来る。
それまでは[最高の施設だ]とまで言っていたのが、この数か月で何も言わなくなった。むしろその話題に近付くと自分から話を逸らす、そんな状態が続いている。時々ヒステリックになったり、わめいてみたり。この前などはバラエティー番組をご飯を一緒に食べながら見ていたのだが、食べながら泣いていた。
だから、先ほどの[ウチ、来るの?]の言葉にカズは直ぐに反応できなかったのだ。
「何で、千歳は別の道を進めるんだ?」
――その真意が知りたい。
「あたしが大学院の途中から研究所入って今年で三年目なのは分かるよね? 今までの二年間は基礎研究をやらせてもらっていたんだ。そう、応用生命学のね。だけど今年から実践的セクションに配属されてね」
そんな事は初めて聞く内容だ。
「それで?」
「その実践的なセクションっていうのが……」
そこまで言って口ごもる。その途切れた文章を、
「人体実験をやっている、と?」
カズが続ける。
その言葉に千歳は黙って頷く。
その目には涙が浮かんでいた。直ぐに両手で顔を覆う。そんな千歳を包むようにカズは自分の両手を彼女の背中に回して抱きしめる。
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