15.人体実験を繰り返していた-あたしの人生はきみのものでもあるんだからね-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
今は六月である。彼女が今年から配置転換されて二か月、その間ずっと独りで抱え込んでいたのだ。だが、もともと勝気な彼女でも今の現実は受け入れがたいものなのだろう。彼女はめったに弱音や涙は見せないのだが、カズの腕の中でおいおい泣いていた。
――千歳……。
カズはしばらく黙って抱きしめていた。自分から言わないものをあえて無理に聞こうとしても[傷]が広がるだけだ。そのくらいの判断はつくつもりでいる。
どれくらいだろうか、しばらくそうしていたがようやく落ち着いてきたのでカズも腕をほどいた。
「初めは……初めはね、死んだ人の解剖をして、取り出した器官を使って薬品の反応を見たり検査をしたりしていたんだけど……」
なかなか言葉が出て来ない。いつものハキハキとした千歳とはまるで別人だ。
「その器官に機械とかの装置を取り付けたりして実験していたんだけど……五月に入ってからは生きている人を使って……その……」
またふさぎ込む。だが、カズはじっと待っていた。
――酷なようだが、自分から話をしてもらうのが一番[傷]が少なくて済むよな。
またしばらく泣いてしまったが、千歳もそれでは話が進まないと思ったのか、涙目をゴシゴシして、
「薬物の投与もしたし、体の一部を切って機械を埋め込んで神経伝達の実験をしたりして。それも一人じゃあなくて何人も……。みんな裸のままでマジックで体に番号を振られて、手足を拘束されて。中にはね、中には男の人の……その、アレを分解して装置を取り付けたり、女の人のお腹を切って、繋がったままの子宮を取り出して実験を……。その人たちの叫び声や、うめき声が耳から離れないの……」
話をすべて聞いた内容は、とてもまともな人ではやっていけないような内容だった。吉岡の言っていた通り、人体実験を繰り返していたのだ。一応、生きている人たちは囚人、中でも重い懲役刑か、死刑が確定している人だ、との説明は受けたらしいが、それもどこまでが本当の話なのか。
日本の年間自殺者数はおよそ三万人と言われている。
これは解剖医の数が限られている為、とも言われている。さらに不審死を含めると、統計上だけでも年間数万人近くの人間が[戸籍上いなくなっている]のだ。もしも実際に調べる手段があれば多分、もっと多い数字が出る事だろう。
囚人、と千歳は言ったが、カズは違うだろうと考えていた。それは千歳も同じだろう。それくらいは現場を見ていれば分かるはずだ。だが、それ以上突っ込むのは身の危険を伴う。それが分からない千歳ではない。
そして千歳は上司から[この事は絶対に秘密だ]と言われたそうだ。そして[もし、漏らしでもしたら自分がその被検体になるのだ]とも言われたらしい。
「そんな大事な事を俺に話して大丈夫なのか? もちろん他で話すつもりは全くないけど、もしバレたら千歳が……」
「きみだから話したんだよ! 他の人なら絶対に言わないよ!!」
千歳が珍しく声を上げる。が、アパートだし直ぐにマズいと思ったのだろう、口をふさぐような仕草をしたあと、声を下げて、
「あたしの人生はきみのものでもあるんだからね……」
そう言い終わるかどうかのどころで、カズが千歳を引き寄せて自分の唇で千歳のそれをふさぐ。彼女は少し驚いたが、直ぐに目を閉じて余韻に浸る。
長いキス。カズが少し塩っぱいと感じるのは千歳の涙が口元まで流れたせいだろうか。初めは純粋な、しばらくすると、お互い舌を絡めて舐め合うように、慰めあうように深くキスをする。
ここのところすれ違いが続いていたのもある。今の話を聞いて動揺したのもある。そんな話を、自分の身が案じられるような話をあえてしてくれたというのもある。
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