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13.千歳は-人生は決して順調という訳では-

全47話予定です


日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)

 千歳は前述のとおり、カズと同じ高校生活を送ってきた。両親と妹の四人暮らしだ。その人生は、と言えば決して順調という訳ではなかった。


「千歳ってさぁ、最近ちょっと生意気だよね」


 ――ああ、まただ。顔は見えないけどこの声、覚えてる。


「ちょっとハブっちゃおっか」


 ――えっ?


「そうだよね、そうしよっか」


 ――あたしが何か悪い事でもしたの?


 千歳にはこれが夢なのか、現実なのか区別が出来ないでいた。


 冷静に考えれば昔の話だというのが分かるはずなのだが、夢というのは見ている間は区別が付かない事のほうが多いのも事実だ。


 誰なのか、頑張って顔を見ようとしたが、靄がかかっていて最初の子以外は誰だか分からない。


 千歳は必死でその女の子たちに話しかけようとするが、体が鉛で出来ているかの如く思うように動かない。


 そうしているうちに、その子たちはどんどん千歳から遠ざかって行ってしまう。


「待って、あたしの話を聞いて」


 どれだけ追いかけても追いつけない。


 と、どこからともなく笑い声やひそひそ話が聞こえた。悪意に満ちたその声は、まさに昔の自分が苦しめられた体験そのものだった。



 ――――――――


 元々が勝気な性格の千歳だ、小、中学の頃はやはり周りの人との軋轢があった。つまり、いじめにあっていたのだ。


 子供は時に残酷だ、人に対する配慮や言動の重さといったような大人なら普通にできるものが未発達な為に出来ない。それ故、自分と違うものを、自分と違う考え方を持っているものを自分が所属しているコミュニティーから排除しようとする。まぁ、それは大人でも同じようなものだし、大人の場合は分かってやっている分タチが悪いのだが。


 そんな千歳だが、家族との関係も決して良いものではなかった。両親の愛情は主に妹に向けられていた。妹もそれは分かっていたようで、いわゆる[見せつけ]ていたのだ。何か物を買ってもらう時も妹の方が良いものを与えられた。そんな時、必ずと言っていいほど、


「お姉ちゃん、いいでしょう?」


 と、含んだ眼差しで語り掛けてくるのだ。


 そんな時決まって千歳の口からは、


「だから、何?」


 と出るのだ。


 幸いだったのは、両親と妹の関係も、千歳と友人との関係も彼女が高校生になって勝気な態度が少し影を潜めたあたりから徐々に良好になっていった事だ。


 そう、千歳は学んだのである。


 だが、その性格はやはり勝気、と言えるだろう。わがままとは違う、曲がったことが嫌いな間違いは間違いとはっきり言う、そんな性格だ。


 それはとても生きずらい性格だ。


 たから表面だけでも周りに合わせるように自分からも変えていったのだ。それでも、子供の頃に刻まれた[傷]というのは簡単には埋まらないものだ。そんな[素の千歳]にも賛同してくれる人が現れた。その一人が恵美であり、カズなのだ。二人とも千歳のその性格を[それでいい]と言ってくれたのだ。それはそれまでの千歳には決して無かった事だ。自分の事を理解してくれる、分かってくれる、そんな彼女が自然と二人に心を許したのは当然といえばそうなるだろう。つまり、二人は彼女にとって[友達]になったのだ。


 そして高校三年になろうとしていたある日、カズから告白されてそのまま県外の同じ大学を目指す事になる。


 ――――――――



 そんな影たちに追い詰められる千歳に、靄の中から一人の男の子が現れた。顔を見ようとしたが、これも霞がかかったみたいに見る事は出来ない。


 だが、他の悪意の影と違って、どこか優しそうに見えた。


「あなたは?」


 千歳は首をかしげてそう聞いた。


「千歳、お前の事が……」


 ――えっ? あなたはもしかして……。


 その男の子に近づこうとした千歳の足を掴むものがあった。彼女がそちらに意識を向けると無数の手が、足が、バラバラになった死体が横たわっていた。中には内臓を引きずりながら千歳を掴もうとしているものもいた。


 ――これは、現実なの?


 動揺する千歳の足に次々と縋り付いてくる人影。男であれば容赦なく蹴りを入れるところだが彼女は女性だ、それでも何とか振りほどこうとする。


「誰か、誰か私を助けて!!」


 その声に反応したのか、先ほどの男の子が千歳に近づいていくと光に照らされた闇のように人影が次々と消えていく。


「カズ、なの?」


 千歳はその男の子に話しかけようとした。相手が何か話そうとしたその瞬間、


「はっ!?」


 そこで目が覚めた。


 どうやら眠ってしまったらしい。


 そんなものを見たせいか、今日は涼しいはずなのにうっすらと汗をかいていた。


「夢かぁ……」


 そうつぶやくと無言で体を起こして服を脱ぎ、手近にあったタオルで体を拭いてテーブルに置いてあったペットボトルを口にする。


 汗をかいたせいか、相当喉が渇いていたみたいで、半分以上入っていたそれをごくごくと、あっという間に飲み干してしまう。


「カズ……」


 声に出してみる。


 生体応用工学研究所に就職して都合三年目。それまでとはうって変わった業務内容に千歳の心は疲弊していた。あの勝気な彼女をしても、それだけ今の仕事は心身、特に心に負担をかけるものなのだ。


 今の千歳を支えているもの、それはカズの存在そのものである。彼がいなければ千歳の心はとっくの前に折れてしまっていただろう。それを支えてくれるもの。それだけ今の彼女にとってカズの存在は大きいのだ。


全47話予定です



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