12.だけど気をつけろよ-それ以上は突っ込まなかったのは-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
「俺は、それでもそこを目指したいと思っている」
カズは静かに答えた。
「何でだよ、そんなヤバい研究をしてるのにか?」
当然、吉岡してはそんな反応になるのだが、
「まぁ、聞いてくれよおやじ。その噂が仮に本当だったとしたら、逆に俺はその研究所に惹かれるんだ。こう言っては何だが[実現したい]夢でもある」
カズは前々からその想いを胸に秘めていたのだ。
その想い、それは人間と機械の融合である。人が乗って動かす機械ももちろんカズの中にはあるのだが、もっと踏み込んだ、機械との融合。今の研究室でもその予備段階としての実験を動物で行っているのだ。
「それにさ、おやじ。こんなご姿勢だ、いつ戦争が起きるとも限らない。それはおやじも理解していると思うけど、だからこそ[力]が欲しいんだ」
「天野を守るために、か?」
カズの心を読むかのように吉岡が反応する。
「でもよぉ、そんな方法じゃなくても、身を守るやりようなら他にいくらでもあるんじゃあないのか? なにもいわくつきの場所じゃあなくても」
「それでも、俺は今の研究を続けたい。それは千歳も恵美さんも……」
そこまで言ってから、
――しまった!
と思ったのだが、
「何、お前襟坂も巻き込もうとしてるのか!?」
当然の反応である。
「巻き込むつもりはないよ。ただ、本人が望んでるって話で」
「お前が行くから、か」
するりとカズの心中にしまってあったものが吉岡の口から出る。
――そういう、勘の良さはいいよな、おやじは。
「どこまで知ってるんだ、おやじは?」
カズがそう尋ねると、
[どこまでかは分からんが]と前置きしたあと、
「以前にお前がいなくて、岩田と俺と襟坂の三人で飲みに行った事があってな。あいつは直接は語らなかったが、昔、お前となにがしかの接触があって……あーめんどい。つまりは、だ。お前にコクったけど振られて、それでもお前を忘れられずにこの大学まで付いて来たってところだろ?」
とコーヒーを飲む。
「で、いざお前がその研究所に行きたいと彼女にいったら、自分も行きたいと。多分そんなところだろ? で、お前は止めなかったのかよ?」
当然の疑問だろう。
しばらく沈黙が流れる。吉岡もあえてせかしたりはしない。本当は、カズにしてみればこの場で黙る事が、今まで吉岡が話してきた内容を肯定する事になるのは分かっている。だが、それ以上の言葉が出ないのだ。
どれくらいそうしていたか、ふと、
「おやじなら止めたか?」
そう、カズが言う。
「おやじなら、自分に好意を寄せている女性に[あっちへ行け]って言えるか?」
「お前に彼女がいなけりゃいいんだがな」
すっと言葉が、ラグなしで返って来る。
「だが、お前は彼女持ちだ。いくら相手が好意を寄せていてもそこは断るべきなんじゃあないか? 俺ならそうするがな」
再び沈黙が流れる。
しばらくして、
「だが、別にお前の行動を責めたりはせんよ。俺はその[当事者]じゃないからな。問題は当事者がカタをつけるべだと俺は思ってる。だがな、倫理的にどうだ、って話なだけで」
「そんなに簡単なら、そんなにドライに割り切れるなら俺もそうしてるさ。だけどな、俺はおやじじゃあない。そんなに上手く割り切れないし、人付き合いも上手くない」
――おやじだって、俺の立場になれば分かるはずだ。
「そりゃあそうだ。それくらいは見ればわかる。ただ、どうなのか聞きたかっただけさ。だけど気をつけろよ、ってもお前の人生か。襟坂の事は、もし巻き込んだんならちゃんと面倒見ろよな」
吉岡がそこで追及を止めて切り上げ、それ以上は突っ込まなかったのはカズにとっても意外ではあった。
だが、吉岡相手に独自の対人関係の理論を展開して[友達以外は人間扱いしなくていい、だから人体実験に使ってもいいんだ]などとはとてもではないが言えない話だ。
「まぁいいや。そんな深刻な話をするためにわざわざお前を連れ出したわけじゃあない。ちょっと気になっだけだよ」
そう言っている間にちょうど料理が運ばれて来た。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「ではごゆっくりどうぞ」
あんな会話のあとだ、目の前に並んだフルコースは今のカズにとってはかなり残酷なものに見えた。
――あんな話のあとにこれを今から食え、と。
そんなげっそりとしたカズを見たのか、
「おぅ、そうだ食え食え。今までの話と、この料理は別もんだ。なに、そうすれば一食浮くだろ?」
「おやじ……」
「切り替えも時には重要だぞ」
すでにサンドイッチに手を付けてそれを見ていたおやじが上目で続ける。
カズはどれが正解か、分からずにいた。
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