詐欺師の末路
さて、どうして俺がわざわざ魔石スライムを持ち出したのかというと、目的は一つ。シドたちの重い口を開かせるためだ。本人たちから今どういう状況なのかを説明してもらわないと、俺もどう動けばいいのかわからない。
俺とシドたちが会話する場を設ける為にわざわざミーファに頼んで皆をこの教室に呼んでもらい、魔石スライムの詐欺を仕掛けたわけだ。その効果は早速発揮されて、事態は一気に動き出した。
「やっぱりエイトに口止めされてたんだな」
「魔石スライムのことは誰にも教えるなって……秘密を洩らしたら罰を受けてもらうって言われたんだ……」
「周りに知られて詐欺がバレるのは嫌だったんだろうな」
「ソ、ソラくん……この話聞いて大丈夫なの……? シドくんたちがひどいことされたりしない……?」
「大丈夫だよ。ちゃんと考えてある」
詐欺師がよくやる手法ってやつだ。秘密を洩らしたら罰金として大金を払ってもらう。周りに人間に秘密にするように命じて孤立させる。そうやって詐欺の被害者から大金をむしり取る。
「で、餌として与えるように言われたのがこの魔石ね。……値段がひどいな。これ、相場の五倍くらいしてるぞ」
「五倍!? そ、そんな!?」
「いや、だってこれ、本当に安物だぞ。そうだな……ギルドに持っていっていくらくらいの値段で引き取ってもらえるか確認してくるか。いくつか貸してくれ」
俺がここで魔石の値段について言うより、専門家であるギルドの人に査定してもらった方が確実だろう。
「で、この魔石を買わせて借金背負わせた挙句、冬休みの間に高額のアルバイトを紹介するといってみんなを連れて行こうとした、というわけか。――うん、これどう見ても詐欺だな」
「詐欺……」
「僕たち、騙されてたのか……」
みんな呆然としている。まさか自分が詐欺にあうとは思ってなかったのだろう。もう少し放置したら怒ってエイトのところに向かうかもしれない。けど、魔石の値段のことも調べたいし、他にも気になることはある。
「さっきも言ったけどギルドで魔石の値段を確認したり、他にも調べないといけないことがある。だから二、三日、時間が欲しい。その準備ができるまでみんなにはエイトに黙っていてほしい」
「……で、でも、エイトの奴、お金を払うか、アルバイトをするか、さっさと決めろって……」
「悩んでるから二、三日待ってくれって言っとけ。アルバイトに行こうと思うけど家族と相談中、でもいいぞ。とにかくこっちがエイトを疑っていることがバレなければいいんだ」
「う、うん……わかった……」
気弱そうな少年が不安げに聞いてきたので何て答えればいいのか教えてやる。
「あとは一人にならないようにすることだな。常に数人で集まって一人になるようにしなければエイトも話しかけてこないだろう」
「そ、それなら……うん……できるかも……」
いくつか注意事項や気がついたことを伝えて解散した。
さあ、エイトに気がつかれる前にさっさと行動を始めよう――。
◆
二日後。
「こんにちは、エイト先輩。ちょっとお話しませんか」
「な、なんだ君たちは!?」
俺を先頭に五名のクラスメイトを引き連れてエイトの部屋に入り込んだ。
「お話しましょうって言ってるんですよ。なんでも冬のアルバイトの斡旋をしているらしいじゃないですか。どんな条件か教えてもらえませんか?」
「……君たちが彼に教えたのか。だが……部外者には……いや……そうだな」
エイトが苦々しげに顔を歪めて背後の連中を睨んでいたが、何か思案した後に、一転して笑顔を浮かべた。
「いいとも、教えよう。他にも参加希望者がいるなら何人でも構わない。人手がいくらあっても足りない仕事でね。これが契約書だよ」
机の引き出しから一枚の紙を取り出して俺に差し出した。
雇用期間、労働内容、労働条件、賃金……なるほど。冬休みの間に魔草を育ててエイトの雇い主に売るのと、住み込みで簡単な内職を行うのが仕事らしい。
魔草の栽培は俺たち一年生でも可能な仕事だし、雪に閉じ込められる冬場に屋内で内職をして生活費の足しにするのはどこの家庭でもやっていることだ。
実家に帰って家族たちと再会を喜ぶような暇はないだろうが、仕事自体は全うだと思う。
「これ、賃金安くないですか?」
そう、仕事自体は全うだった。ただ、賃金はとても安かった。明らかに買い叩かれていた。
「……なにを言うんだい。これは住み込みの仕事だよ? 食費や薪代を引いたらこんなものさ」
「いや、この仕事なら倍は貰えるはずです。魔草の買取値段が安すぎます」
「こっちは魔草用の畑や雪除けの設備も用意するんだ。その分買取価格に影響するのは当然じゃないか」
「その分も含めて安すぎるって言ってるんですよ」
冬場は食料などが高騰するように魔草の値段も上がる。雪や寒さで野生の魔草を採取する難易度が上がり、人里近くの畑で栽培している魔草しか供給されなくなるので金持ちの奪い合いになるらしい。
俺が調べた相場から見てもエイトの持ってきた仕事は安すぎた。おそらく紹介料とか中抜きとかしているんだろう。
「――ふん、嫌ならいいんだ。断ってもね。でもこの仕事より割のいい仕事があるのかな?」
こっちがごねて賃金を上げようとしていると考えたんだろう。エイトが嫌らしい顔で言う。
「魔草の栽培は金になる。確かに君の言う通りだ。だが、さっきも言ったが畑や雪除けの設備がなければ真冬の魔草の栽培はできない。そんな場所を用意できるのは貴族や大商会だけで、君たちだけじゃあ無理だろう?
何の伝手もない君たちじゃあ魔草の栽培なんて仕事にありつけないし、他の仕事をするくらいならこの仕事の方が割がいい」
嘲笑うエイトの顔が彼の本心を表していた。完全に俺たちを見下し、バカにしていた。
「嫌ならいいんだ、別に無理して働いてもらわなくていい。……でも、この仕事を断るってことがどういうことか、君たちは理解しているんだろうね? ねえ、後ろの君たちはちゃんと理解しているのかい?」
俺の背後の五人、シドたちに蛇のような視線を向ける。エイトが言っているのは借金のことだ。紹介した仕事を断るなら今すぐ借金を払えを言っているんだ。
「エイト先輩」
「うん? やる気になったのかい?」
「いえ。お断りします」
きっぱりとエイトの提案を断る。一応アルバイトの内容を確認したかっただけで最初から断るつもりだったから当然だ。
「で、彼らの借金なんですけど」
「……ああ、やっぱり君も知っていたのか。秘密を洩らしたんだね。これは困ったな。彼らの借金が増えた――」
「この魔石代がぼったくりなので、現金じゃなくて魔石でお返しします」
「――ん? どういうことだい?」
「あんたがシドたちに吹っ掛けた魔石の代金がでたらめだから金は払わないって言ってるんだよ。使った分の魔石は返してやるからそれで我慢しろ」
普通の魔石ならともかくエイトが詐欺に使ったクズ魔石なんて二束三文の安物だ。量が多かったので全部普通に買おうとしたらそこそこの値段になるが、魔力もほとんど籠められていないクズ魔石なんてやろうと思ったら一日で大量につくることができる。
俺が魔石スライムでつくったクズ魔石を渡してやるからそれで我慢しろ、そう言っている。
「ソラくん。君は勘違いしているようだね。確かに彼らに渡した魔石は大した価値がなかったかもしれない。でも、彼らはその値段でいいから譲ってほしいと言ったんだ。つまり商売と同じさ。僕が安く仕入れた魔石を彼らが高く購入した、ただそれだけ。
――なんでわざわざ高く売った商品を、僕が同じ値段で買い戻さないといけないんだい? そんな話を認めるわけがないだろう、バカげている」
なるほど、エイトの言っていることも一つの真理だろう。
シドたちがクズ魔石を高い値段で買うと言ってしまった以上、シドたちはその金額をエイトに支払わなければならない。クズ魔石の値段をしっかりと調べなかったシドたちが悪い。エイトが現金じゃなくてクズ魔石で手を打つ必要が無い。
「……こっちは魔石を返すって言ってるんだけど、それで手を打つつもりはないんだな?」
「当たり前だろう。それに君に秘密を洩らした分の罰金もしっかり払ってもらうよ。さあ、借金が増えてしまったけど君たちはちゃんと僕に返せるのかな――」
「ありがとう」
「――へ?」
間抜けな顔をしたエイトを、思い切り。
ぶん殴った。
まったく警戒していなかった隙だらけの顔に向かって、全体重を乗せて渾身の力で拳を振り抜く。
二つ年上のエイトは当然俺より大きかったけれどそんなの関係ない。簡単に吹っ飛んで床に転がった。
「――!? なんで、なにを……!?」
「何言ってるんだよ、エイト」
倒れたエイトの上に馬乗りに乗って両手を封じる。体格差や体重差を覆すマウントポジションだ。喧嘩の経験が少なそうなエイトはろくに抵抗もしてこないので楽だった。
「詐欺がばれた詐欺師はタコ殴りにされる。当たり前の話だろ?」
せっかく魔石は返してやるし、それで手打ちにしてやるって言ったのに。
まあいいや、とりあえず泣いて謝るまでボコボコにするか――。




