詐欺は二種類ある
「さ、詐欺って、どういうことだ!?」
泡を食って俺に詰め寄ろうとする少年たちに、淡々と言葉を返す。
「種も仕掛けもある、ただのトリックだってこと。魔石スライムなんてあり得ないってスコット先生もが言っていただろう?」
「そ、それは、そうだけど……! でも、今、魔石を出したじゃないか!!」
「それがトリックだって言ってるんだよ」
ケージの中の魔石スライムに命令する。
(もう一個魔石出して)
――お腹空いたー!
――魔力食べたいー!
(ちゃんとあげるから。ほら、早く)
――わーい! 石出すー!
――わーい! 魔力出すー!
いつものようにパスを通じてストーンスライムとマナスライムに魔力を与え、魔石をつくってもらう。
俺の魔力だけで魔石をつくりだした、正真正銘、【本物の魔石スライム】がこの場にいる。
――カラン
ケージの中に新しくつくられた魔石が転がる。どこからどう見ても【本物】だ。本物なのだから、本物にしか見えなくて当たり前だ。
「本物の魔石スライムみたいだろ? でもこれ、偽物だから。トリックがあるんだよ」
本当は【本物】なのに【偽物】だと言う。
トリックなんてないのに、ただのトリックだと言う。
詐欺師が【偽物を本物だと言う】ように、俺は【本物を偽物だと言う】わけだ。
「本物の魔石スライムなんてあるわけないのに、誰もトリックに気がつかなかったのか?」
世紀の大発見、不可能と言われた奇跡の魔石スライムを手に持って、こんなものあるわけないだろと堂々と言い放つ。純粋に魔石スライムの存在を信じていたシドたちに頭から冷や水をぶっかけて現実を吹き込んでいく。
「…………」
自分たちが信じていた魔石スライムをあっさりと否定した俺に、シドたちの目に宿っていた熱狂が覚めていくのを感じた。
ただ口で言ってもきっと通じなかっただろう。俺やミーファが何を言っても、頑なに否定してエイトの吹き込んだ妄想を信じただろう。
――でも、エイトがやったことを目の前で実演して、不可能だと思われていた魔石スライムを俺が連れてきて、こんなの全部嘘っぱちだ、ただのトリックだ、と言ったら?
エイトしかできなかったことを俺がやったら、エイトの絶対性が薄れる。エイトの言葉を嘘かもしれないと疑ってしまう。固い結束で結ばれていた関係に疑惑の種をばら撒く。
「……ト、トリックって、どうやったんだよ」
「どうやったと思う?」
トリックの種を聞いてくるシドに逆に聞き返す。
本当は種も仕掛けもないからな。考えてすらいない。
だから、それを悟られないように笑みを浮かべて堂々とした態度で尋ねた。
「どうやったらこんなことができると思う?」
俺が考えるのは面倒だからやめた。
代わりに君たちが考えてくれ。これだけ人数がいるんだから一人くらいは思いつくだろう?
「……」
「……」
「……」
黙り込んでしまったけど、まあそれでもいい。種も仕掛けも秘密です、とごり押ししてしまうことも可能だ。どうせ些細なことだからな。
――食べていいー?
――食べたいー!
(いいぞ)
――わーい!
――わーい!
ケージの中に放置されていた魔石をストーンスライムたちが食べたがっていたので許可を出した。必要になったらまたつくればいい。
「……あっ!」
ストーンスライムたちが魔石を捕食している姿を見て、ひとりの生徒が目を見開いた。
「ま……、まさか……。もしかして……」
「わかった?」
「う、うん……もしかしたら……魔石をストーンスライムの体内に隠して、それを出しただけ……なんじゃ?」
へえ、そんな方法でいいのか。
(お前たち、食べるのストップ)
――えー!
――食べたいー!
(後で食わせてやるから少し待て。もう一回魔石吐き出してくれ)
――カラン
ストーンスライムが吐き出した魔石がケージの中に転がる。なるほど、確かに消化させなければ出し入れ自由だ。
「よくわかったな。そうだよ。簡単だろ?」
この方法を思いついた彼ににっこりとほほ笑む。
エイトがどんな方法を使っていたのかはわからない。もしかしたら本当に魔石スライムがつくれたのかもしれない。
でも、今この瞬間、エイトはただの詐欺師になった。たとえ本物の魔石スライムを持っていようと、シドたちにとって【本物】ではなく【偽物】になった。
詐欺師には二種類いる。
【偽物】を【本物】と偽る詐欺師と、【本物】を【偽物】だと偽る詐欺師。
さあ、どっちが上か決着をつけようか?




