これは詐欺だ(ミーファ/シド)
「うう……困ったよぅ……」
ミーファは困っていた。とても困っていた。
「お金を貸してほしいって……私、お金なんか持ってないよぅ…‥」
友達のシドから金の無心をされていたのだ。
だが、貧乏な実家からの仕送りなんてあるはずもなく、学園から支給される奨学金も学用品と細々とした小物を購入したら尽きてしまった。
年度末の試験はそれなりの成績が取れたのに来年度の奨学金も保証されているが、それが支給されるまでまだ時間がある。シドから要求された金額を渡すことなんてできなかった。
「……シドくん、大丈夫かな……」
シドとソラが喧嘩をした頃からシドの様子がおかしくなっていた。一人でニヤニヤしたり、学校が終わった後もさっさと寮に帰るようになったり、知らない上級生と一緒にいる姿も見かけた。
最初は浮かれた様子で機嫌が良さそうだったのに、だんだん顔色が優れなくなって、イライラするようになったし、ミーファや他のみんなに当たるようにあった。
そんな状態のシドでもミーファは見捨てずに根気よく話しかけていたのだが、年度末のスライムの発表会以降、シドは死人のような顔をしていた。思いつめた様子で来年度の奨学金の額がかなり減額されたと言われ、お願いだから金を貸してほしいと頼まれたのだ。
そんな困っている様子のシドを、彼女は見捨てることができなかった。力になってあげたかった。だからどうにかしてお金を稼ぐことができないかと唸っていた。
……彼女の頭の中はシドのことでいっぱいで、彼を心配する気持ちと、彼が頼ってくれた嬉しさが心の中を占めていた。残念ながら仲が良かったもう一人の少年のことは隅に追いやられていた。
――コンコン
「はい……?」
ドアをノックされる音。部屋の外に誰かいるらしい。覗き穴から外を見てみると、寮の廊下に思いもよらない相手が立っていた。
◆
一学年の授業も残すところあと僅かとなったある日。
シドはミーファから呼び出しを受けていた。
(……こ、このままじゃ……金が……お金がもっとあれば……!)
シドの頭の中はお金のことでいっぱい、胸の中は未来の自分に対する心配で満ち満ちていた。
もうすぐ冬に入り、魔法学園は冬季休暇に入る。年末年始を実家で迎える生徒たちの為に二か月間の長期休みが存在しているのだ。
年が明ければシドたちは二年に進級するが、その前に冬期休暇の間にお仕事をしてみないかとエイトから誘われていた。エイトから購入した魔石の代金の借金がかなり溜まっていたので、アルバイトを紹介すると言われたのだ。
そんなところに行きたくなかったシドはミーファに借金できないか相談した。その金をエイトへの返済に充てるか、あるいは一発逆転を信じて更に魔石を買うために使うか。
スコットに絞られたシドだったが、まだ魔石スライムに対する妄想から醒めていなかった。
「お待た……ん?」
待ち合わせの教室に入ったところでおかしな光景を目撃した。
放課後の空き教室になぜか生徒たちが集まっていた。それもシドのクラスメイトたちで、ストーンスライムを育てた同類たちだ。
待ち合わせ相手のミーファはまだ来ていなかった。他の生徒たちの視線を浴びながら手近な椅子に座った。居心地悪い空白の時間だけが過ぎて、誰一人口を開かなかった。
――ガラッ
「……え」
どれだけそうしていただろう。気がついたら教室の前のドアが開いて一人の少年が中に入ってきた。少年の手にはスライムの飼育ケージがあり、中には岩のようにゴツゴツしたスライムがいた。
「あ……」
少年が持っていたケージを掲げて、その場の全員に良く見えるようにした。
――カラン
みんなが固唾をのんで見守る中、ストーンスライムが石を吐き出した。少年はその石をシドに渡してきた。
「……」
手の中の石が信じられずに呆然と見つめている。
――カラン
「これ……」
――カラン
「嘘だろ……」
――カラン
「え……えっ……!?」
シドが呆然としている間に、ストーンスライムは次々に石を吐き出し、少年が周りの子供たちにその石を渡していく。全員の顔が驚愕に彩られていた。
「魔石だ……」
最後の一人まで渡ったところで、誰かが言った。
「魔石スライムだ……!」
少年の持つケージの中に入ったスライムを【魔石スライム】と呼んだ。
「――いいや、これはただの詐欺だよ」
そして、ケージを手に持っていたソラは、堂々と言い返した。




