マンドラゴラの行方
スライム発表会から数日。
良く晴れた秋晴れの空の下で大勢の生徒たちがマンドラゴラ畑の側に集まっていた。よく見知った従魔術学科の生徒たちだけではなく、初めて見る錬金術学科の生徒たちも集まっていた。
「それではこれからマンドラゴラの収穫を始める」
スコット先生がいつもの感情を感じさせない声で説明を始めた。
「マンドラゴラの根に魔力が込められているのはすでに知っているはずだが、収穫する際に根を傷つけてしまうと魔力が損なわれてしまう。丁寧に、細心の注意を払って掘り出すことが必要だ」
手近なマンドラゴラの側に近寄り、茎の根元を指でさす。
「掘り返すときはスコップなどの道具を使うことを禁止する。素手で土をかきわけ、細かい根の一本すら折らないように気をつけるのだ。やってみなさい」
「は、はい」
スコット先生の指差したマンドラゴラを育てていた生徒が地面に膝をついて、両手でつちをかきわけていく。
「今、根を折ったな」
「えっ!?」
「見ろ、これも根の一部だ」
かき出した土に交じっていた糸のように細い根をつまみ上げ、周囲に見せた。
「これも根も一部だ。この細かい根にも魔力が込められているし、傷がつけばそこから魔力が抜けていく。注意しろと言っただろう」
「す、すみません」
スコット先生や他の生徒たちの視線にさらされながら必死に掘り進めていく。その後も何回か注意をされながらようやく根の全貌があらわになった。
マンドラゴラの根っこは一本の大きな太い根と、その周りにまとわりつく細い根で構成されていた。太い根っこは……人間の出来損ないみたいな形をしていた。
「この太い根が特に魔力の詰まっている部分だ。当然、錬金術で使われる材料として一番需要があるのもここだ。込められている魔力が多ければ多いほど、根が大きくなっていく性質がある。この根は少し小さいな」
両手の平ですっぽり包み隠せるくらいの大きさだったけれど、どうやら小さい方らしい。
「収穫が終わったら洗い場で土を洗い流してこの台の上に並べなさい。自分の物と他の人間の物を混ぜないように。並べ終えたら評価をつけるぞ」
ここまで説明したところでようやくマンドラゴラの収穫が始まった。一人目に選ばれた子は貧乏くじだったけど、どういう風にやればいいのかわかったので細い根を折らないように気をつけて収穫しよう。
自分の育てたマンドラゴラのもとに向かって、根元の土をかき分けていく。地面の上に広がるように大量の葉っぱを生い茂らせていたので手元がよく見えない。それでもなんとか傷をつけないようにして土を掘っていく。
――~~~~~~?
マンドラゴラから困惑したような感情が向けられる。ここで元気よく葉を茂らせ、根を伸ばしていたのにどうして土を退かすのかと言っている気がする。
言葉を交わせるほど感情豊かではないが、それでもこれから収穫しようという相手にこんな感情を向けられるときつい。マンドラゴラを収穫するということはマンドラゴラを殺すということだ。
なるべく無心になって、丁寧に土をかきだしていく。他の生徒の倍以上に育っているマンドラゴラだ。根っこも当然大きいし、気をつけて支えないと細い根っこなんか自重で簡単に折れてしまう。
他の生徒が全員マンドラゴラを洗って台の上に並べ終えたあたりで、ようやく俺は根っこを掘り終えた。たぶん傷はついていないと思う。
「……なんだあれ」
一抱えもあるマンドラゴラを持って洗い場に向かうと、周りの生徒から奇異の目にさらされた。
掘り出し終えたマンドラゴラの根っこに、スコット先生が言っていた魔力が集まっているはずの部分――人型をした太い根っこが存在しなかったのだ。
どれも同じ大きさをした根っこが数本伸びていただけで、人型の根だけがない。
(……これが、スコット先生が言っていた失敗か)
他のクラスメイトたちのマンドラゴラにはきちんと人型の根っこがついているのに、俺のマンドラゴラだけ存在していない。ひときわ大きなマンドラゴラだ。どれだけ大きな根がついているのかと期待していた生徒もいたようだが、完全に期待外れである。
水場で土を洗い流し、台の上に並べて評価を始める。錬金術学科の教師らしい女の先生がそれぞれのマンドラゴラを手に取り、根っこに定規を当てて大きさを計測する。その計測結果にそって今の相場だといくらくらいの値段がつくのか、また収穫の時についた傷を示して、この大きさの傷だと何日で魔力がどのくらい抜けてしまうのか、という説明をする。従魔術学科の生徒も、錬金術学科の生徒も、真剣な顔でその説明を聞いていた。
そして、一人一人評価をして、最後に俺のマンドラゴラの順番が回ってきた。
「――このマンドラゴラだけど、育ち過ぎね。根に蓄えるはずの魔力を成長に使ってしまったんだわ。それに蕾がついている。花が咲いてしまったマンドラゴラの根は使い物にならないから、これは錬金術の素材には使えないわね」
結果は当然のように最低評価。使い物にならない。錬金術師のところに持ち込んでも買取拒否されるレベルらしい。
そうなることは知っていたが、それでも辛いものは辛い。一生懸命育てたものがゴミだと言われているのだ。先生たちの前で大声でバカにする人間はいなかったが、くすくすと笑う声も聞こえていた。
「――では解散だ。お前はそのマンドラゴラと台を片付けてから帰るように」
「……はい……」
全員の評価が終わった後、錬金術学科の生徒たちがマンドラゴラを持って自分たちの学舎に戻っていった。これから収穫されたマンドラゴラの処理の仕方を実習するらしい。
ただ、俺の育てたマンドラゴラだけは使い物にならないし、大きくて重くて邪魔なので置いていかれた。ついでにマンドラゴラを並べていた台も俺が片付けることにされた。マンドラゴラの栽培に失敗した罰らしい……。
スコット先生が解散を告げるとすぐにシドたちは一瞥を向けるだけだったし、ミーファも心配そうな顔を向けてくれたけど女友達と先に帰っていった。こういう時に手伝ってくれる友達が俺にはいない。ボッチである。
一人で片づけをしようとしたところで、帰路の方角から声が聞こえた。
「え、エイトさん!? なんでここに」
声の主はシドで、例の上級生のエイトがその前に立っていた。
――あの二人……いや、シドたちと、エイトは知り合いなのか。
俺の見ている前で一言二言会話を交わしていたが、上級生であるエイトとシドたちの接点なんてないはずだ。……どちらかが意図して接近でもしない限り。
台の片付けをしながら横目で様子をうかがっていると、エイトがこちらに歩いてきたのが見えた。
「やあ、一人で片づけをしているんだって? 大変そうだね、僕も手伝うよ」
「……ありがとうございます」
笑みを浮かべて近寄ってきたエイトの言葉に甘え、二人がかりで台を持ち上げて畑の側に用具小屋に入れていく。人手があるとさくさく進むな。後はマンドラゴラを処分して終わりだ。助かった。
一抱えもある大きなマンドラゴラを俺が持ち上げると、エイトが言った。
「ねえ、ソラくん。そのマンドラゴラの処分だけど、もし良かったら僕がいい仕事を紹介してあげようか」
「……いい仕事ですか?」
「うん、ヒポグリフという魔物を知っているかな? 僕のお仕えしている方が飼っている魔獣なんだけど、餌に大量の魔草が必要でね。僕が口添えしてあげたらそのマンドラゴラも買い取ってもらえると思う。そのまま処分するよりいいと思うんだけど、どうかな?」
「いえ、けっこうです。片付け手伝ってくれてありがとうございました、それじゃ」
「……え? ソ、ソラくん? ちょっと待って――!」
エイトの話を断って、さっさと帰路につく。ヒポグリフにはちょっと興味があるけどそれだけだ。あいつの持ち込んできた話に乗る気はかけらもない。
さっきエイトとシドたちが話をしている姿を見て、疑惑はほとんど確信に変わっていた。シドたちがストーンスライムを連れていたのは間違いなくエイト(こいつ)のせいだろう。
シドたちから詳しい話を聞けるといいんだけど、難しいか。ちょっと真剣に考えてみよう。
――~~~~~~♪
寮への帰り道、手の中に抱えられたマンドラゴラだけが何も知らずに楽しそうに蕾を揺らしていた。
こいつもどうにかしないとな……。




