※これはポーションスライムではありません
「正直に言ったらどうなんだ。お前はポーションスライムをつくろうとしたんだろう?」
「……違います」
「ならこのスライムはなんなんだ? 餌にポーションを飲ませたんだろう? それなのにポーションスライムに進化させるつもりはなかった、というのは考えにくい」
「……このスライムに与えたのは廃ポーションです。ポーションではありません」
「ふん、廃ポーションもポーションの一種だろう。つまりポーションスライムをつくろうとしていたんだな?」
「……違います」
ど う し て こ う な っ た 。
……今俺はスコット先生から執拗に質問攻めされている。延々と同じ質問をされてひたすら苦痛な時間を味わっている。
その原因は俺が発表したケミカルスライムだ。ケミカルスライムが作り出せる薬液は言ってしまえば【魔力の抜けたポーション】そのもの。
【魔石スライム】をつくろうとして【魔石】を与えると【ストーンスライム】に進化するように。
【ポーションスライム】をつくろうとして【ポーション】を与えると【ケミカルスライム】に進化する。
スコット先生は俺のことを疑っているのだ。『お前の発表したケミカルスライムはポーションスライムの出来損ないじゃないのか?』と。ストーンスライムが【愚か者のスライム】と呼ばれているけれど、お前の発表したケミカルスライムもその同類だろう?と。失敗したけれど誤魔化しているんだろう?と。
だから俺は否定した。元々最初からケミカルスライムをつくる予定だったと。餌に与えたのはポーションではなく廃ポーションだったと。魔力を失った薬液の状態でも傷口の化膿を防ぎ、治るのが早くなる効果があると。失敗ではなく、俺が望んでケミカルスライムに進化させたのだと、説明した。
ここで説明を失敗すると俺の成績がヤバい。『狙った通りにケミカルスライムに進化させた』なら合格点が貰えると思う。けれど『ポーションスライムに進化させようとして失敗した』だったらどう考えても評価されるわけがない。ただでさえマンドラゴラの方で失敗しているのにスライムまで失敗だと思われたら、俺の成績評価が壊滅してしまう。奨学金はなくなり、代わりに罰や補修や課題を与えられることになる。
「――では、どうしてストーンスライムが愚か者のスライムと言われるのか。また、ポーションを餌にしてもケミカルスライムに進化するのか言ってみろ」
必死に抗弁する俺に、スコット先生が質問した。この質問に答えられなかったら俺の成績が死ぬ。喉がからからに乾いてた。ごくりと唾を飲み込む。ゆっくり口を開いた。
「……スライムに魔石を与えると魔石スライムにならず、ストーンスライムに進化します。スライムの素材以外ならなんでも消化して吸収し、進化するのがスライムです。けど、魔石は【魔力を帯びた石】。物質としてはただの【石】と同じです。だから、魔石を食べても魔石スライムに進化したりしないで、ストーンスライムに進化します」
まあ、正確にはストーンスライムとマナスライムの二匹に分裂して進化するんだけど。マナスライムのことは横に置いておく。
「……昔の人はそのことを知らなかったので、手に入れた魔石をスライムに与えて、ストーンスライムに進化させてしまう、ということがたくさんありました。高価で貴重な魔石を餌にしたのに、進化したらただのストーンスライム。これじゃあ魔石を食わせる分損をするだけ。
――だから、【愚か者のスライム】。そう言われています」
隣の席のシドや、他のストーンスライムを連れてきた生徒たちが悔しそうな顔をする。本当はこんなこと言いたくないのだが、これは授業でやった内容だ。答えろとスコット先生に言われたら答えるしかない。
「ポーションとケミカルスライムも同様です。ポーションは魔力を帯びていますが、物質的には薬草から作った薬液です。これをスライムに与えた場合、進化するのはケミカルスライム。本物のポーションではなく、一切魔力を帯びていない廃ポーション――ただの薬液を出すスライムになります」
「……ふん。よろしい。正解だ。そこまで理解しているならけっこう」
「……はぁ。良かった」
不機嫌そうな顔のスコット先生から合格のお墨付きがでた。さっきまでの怒り狂っていた顔よりはマシになった。ちゃんと答えられたので少しは機嫌をなおして貰えたらしい。
「魔石やポーションだけではない。魔力を帯びた物質なら同じような事例は起こる。魔鉄を餌にしてアイアンスライムに進化させてしまったり、聖水を与えてウォータースライムに、真銀を与えてシルバースライムに、と同様の失敗は数えきれないほど存在している。
貴重な素材を量産しようと目論見、無駄にしてきたテイマーは太古の昔から数えきれないほど存在する。だが、私の生徒からそのような愚か者がでてしまったことが非常に遺憾だ。他の者たちもこの愚か者たちのようにならないよう注意することだ」
シドたちを睨みつけ、散々愚か者となじったあと、こうはならないように気をつけろ、と生徒たちに言ってスコット先生はシドたちを連れて教室を出て行った。
ストーンスライムを連れてきた彼らがこれからスコット先生の説教部屋に連れていかれるのだ。
「……一人だけ逃げやがって……!!」
その苛立ちをぶつける相手を探していたんだろう。教室を出る前にシドたちが俺を睨みつけてから出ていく。
……俺は廃ポーションを餌に使ったけど、本当にポーションスライムをつくるつもりはなく、最初からケミカルスライムをつくるつもりで育てていた。
魔石スライムをつくろうとして失敗した彼らと同類扱いされると困るし、一人だけ逃げたとか言われて恨まれるのはただの八つ当たりだ。
(面倒なことになったな)
俺は普通に仲良くしたいのにシドとどんどんこじれていく。俺が何をしたって言うんだ……。
(……そもそも、どうしてあんなに魔石スライムをつくろうとした生徒がいたんだ?)
授業でも魔石スライムをつくるのは不可能と言われていた。一人二人ならともかく、あんなに大勢の人間が魔石スライムをつくるのに挑戦して失敗するなんて違和感がある。
――もしかして、と脳裏によぎったのは一人の上級生と一匹のスライム。
あの上級生と関りがあるのどうか。それを聞こうとしたけれど、シドたちは取り付く島もない様子で聞き出すことはできなかった……。




