道を踏み外した少年(シド)
シドは街の貧困層の生まれだった。
父は日雇い仕事でその日の食い物を稼ぎ、母は家事や子供の世話に明け暮れる。貧乏なのに兄弟も多く、食べ物が満足に買えないので常にお腹を空かせていた。
そんな家で育ったシドに転機が訪れたのは十歳の魔力検査の時だった。
魔法学園への入学。衣食住を全て国が面倒見てくれて教育まで施して貰える夢のような生活。シドの目の前に輝かしい未来が訪れた瞬間だった。
報奨金から仕送りをするように言う両親や、おこぼれにあずかろうとする兄弟、近所の知人たちを振り切ってシドは魔法学園に入学した。
そうして学園に入学したシドだったが、彼のような貧困層の出身は少なかった。ほとんどの生徒はシドから見れば上の人間――ただの中流階級、一般庶民――であり、二の足を踏んでしまった。
そんな中で見つけた同類がソラとミーファだった。
ソラはダンジョンの街のスラム出身で、帰る家も家族も持たない孤児だった。ミーファは寒村の貧農の生まれ。話を聞いてみるとシドと同じように貧しい暮らしをしていたらしい。
似たような境遇の三人が仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
◆
彼らの間に亀裂が走ったのはソラのスライムがクラスで一番早く進化した時だった。
他の二人はともかく、少なくともシドはそう思っていた。仲間でシドやミーファがスライム相手に苦戦している横で一人だけさっさと進化させてしまったのだ。裏切られた、と思ってしまった。
自分と同じ立場――あるいは、自分より下――にいたソラが一人でさっさと先に進んでしまったことで、シドの胸中に怒りとも嫉妬ともつかないどす黒い感情が生まれていた。
その感情を持て余し、ソラと離れて一人で過ごすようになった。
「やあ、君はシドくん? スライムの進化に苦戦しているようんだけど、もしよかったらアドバイスしてあげようか?」
エイトという上級生が声をかけてきたのはその頃だった。
「焦ることはないよ。スコット先生だって一か月もあれば進化すると言っていただろう? 僕も一年も頃は進化するのが遅くてやきもきしたものさ」
三年生の先輩の言葉はシドの心を慰めてくれた。寄り添ってくれた。
「厩舎の掃除を一人で? それじゃあ大変だろう? 僕も手伝ってあげるよ」
ソラと離れて一人でするようになった仕事を手助けしてくれた。
「進化おめでとう! これで君も無事にテイマーの第一歩を踏み出せたね!」
そして、ウォータースライムに進化できた時は一緒に祝ってくれた。
「次の課題はスライムを自由に進化させることだろう? シドくんは何か候補を考えているのかな?」
「いえ……それがまだ全然……どうしたらいいのか全くわからなくて……」
「そうか。実はね、そんな君におすすめのスライムがいるんだけど――
――魔石スライムって知ってるかな?」
優しくて頼りなる先輩がそっと打ち明けてくれた【秘密】。
先輩のおすすめなら間違いない……だから大丈夫……。
こうして、シドは魔石スライムをつくることに決めたのだった。




