嘆きのマンドラゴラ
「これ、育ち過ぎじゃない?」
ふとしたきっかけでリゼットをマンドラゴラ畑に案内することになった。リゼットが一年生の頃にマンドラゴラの鑑定をした経験があったので、俺が育てているマンドラゴラの様子を見てもらおうと思ったのだ。
魔水と魔力をたっぷりと与えた俺のマンドラゴラはすくすく育ち、クラスで一番の大きさに育っていた。草丈が大きく伸び、本葉も生えて活き活きとしている。
そんなマンドラゴラを見て、リゼットが「育ちすぎ」だと言った。
「……育ちすぎ? え、ダメなの?」
「私が習った時は育ち過ぎたマンドラゴラはダメって聞いたわ。マンドラゴラが根に魔力を貯えるって話は知ってる?」
「それは知ってる。先生が言ってた」
「育つのが早いマンドラゴラは根に貯えている魔力が少なくて、その分自分を大きくするために魔力を使っちゃっているらしいの。だから、大きいマンドラゴラは収穫しても魔法薬の材料に使えないって話だったわ」
根に貯えていない?
そんなことがあるのか……どうしてだろう?
「もしかして……魔力を与え過ぎた…‥?」
「そうね、魔力を大量に与えるとそうなりやすいって話だったと思うわ」
「じゃあ、今から与える魔力を少なくしたら……!」
「うーん……それもどうかしら?」
リゼットが腰の高さまで伸びて大きく葉を茂らせている俺のマンドラゴラと、隣の畑に生えている膝下サイズのマンドラゴラを見比べている。
「ここまで大きくなっちゃったマンドラゴラは初めて見るし、ここまで大きくなっちゃったのに与える魔力を減らしたら、もしかしたら枯れるかもしれないわ。まだ魔力を貯えてないと決まったわけじゃないし、下手に変えない方がいいかも……」
「う、うん……でも試験は大丈夫かな。不安になってきた」
「一度先生に聞きに行ってみたらいいんじゃないかしら。きっと詳しく教えてくれるわ」
「そうかな。わかった、聞いてみるよ。ありがとうリゼット」
「どういたしまして。まだ試験まで時間があるしがんばってね」
「うん、がんばって育ててみるよ」
◆
リゼットと会話をした翌日。スコット先生を捕まえて畑のマンドラゴラについて話をしてみた。先生も時々は畑に顔を出してマンドラゴラの栽培を見ていた。だから何か異常があれば教えてもらえると思っていたけど、リゼットから聞いた話が本当ならと思うと不安だったのだ。
「お前のマンドラゴラか。よく気がついたな、間違いなく育ち過ぎだ。魔力を与えすぎたのが原因だろう」
「…………」
けど、スコット先生から返ってきたのはリゼットの指摘を肯定する言葉だった。マンドラゴラが育ちすぎていて使い物にならない確率が高いと言われた。
「……なんで、教えてくれなかったんですか? 先生が教えてくれれば――」
「それを私に言うのか」
「……!?」
スコット先生が俺の言葉を遮り、冷え冷えとした目で睨みつけてきた。
「わからないと思ってたのか? お前、ウォータースライムに魔力をたらふく食べさせていただろう?」
「…‥それ、は……!?」
バレてた!?
「通常なら早くて二週間と言ったはずだ。だが、お前のスライムは明らかに成長速度が早く、たった一週間でウォータースライムに進化した。こんなことが起こるのは、テイマーがスライムに魔力を与えて肥え太らせた場合だけだ」
先生に俺がやっていたことがバレていた。でも、今まで気がつかないふりをした……。
「マンドラゴラの過剰育成も当然、早い時点で気がついていた。だが、お前のように教師の指示に従わない生徒にそれを教えてやる義務はないと私は考えている」
先生の言うことに逆らう生徒には何も教えない……。それが、スコット先生の考え……。
「試験の内容は以前伝えたとおりだ。その育ち過ぎたマンドラゴラで鑑定を受けるように。それと試験までにマンドラゴラを枯らした場合は成績は当然、最低評価の上で別に罰を与える」
「……罰……!?」
「罰が嫌ならしっかり枯れないように面倒をみることだ。それとスライムの発表会の方もしっかり準備しておくように。スライムもマンドラゴラもまともに育てられないようなら年度末の成績は惨憺たるものになるだろうな。奨学金も当然減額か全額カットだ」
「そ、そんな……!」
「話は以上。さあ、さっさと退室しろ」
これで話は済んだとけんもほろろに追い出されてしまった。
スライムの件がバレていたのは驚いたけれど、まさかスコット先生がここまで怒っているとは思わなかった……。
◆◆◆◆◆
――先ほど追い出した生徒のことを考える。
シスの街の孤児院出身という男子生徒で、スコットが一番嫌いな【孤児】という人種だ。ほとんどがまともな教育を受けておらず、性格に問題がある人間多い。魔法学院の卒業後どころか在学中に犯罪に手を染める者さえいる。
上流階級出身で魔法学院の教員の仕事に就いているスコットはそんな孤児たちが大嫌いだった。憎んでいると言っても過言ではない。
そんな孤児の生徒が、あろうことかスコットの指示に従わずに好き勝手やっていたのだ。元からあまり寛容な性格ではないスコットの堪忍袋の緒がブチ切れた。スライムに大量の魔力を与えていたように、マンドラゴラに大量の魔力を与えるだろうことは容易に想像できたが、あえて注意をせずに放置した。
授業中に勝手なことをする生徒に対する報復という感情はある。
だが、同時に魔物や魔草に無制限に魔力を与えるだけではダメだと教える為でもあった。テイマーの魔力は有限であり、その使い道は綿密な計算によって分配されるべきである。好き放題与えていては簡単にテイマー業は破綻するのだ。節約するべきところでは節約することが重要である。
そういったことを教える為に、【痛い失敗】としてマンドラゴラの育成を失敗させ、今のうちに経験を積ませる。それもまたスコットの狙いだった。
自分の指示に逆らった生徒に報復し、鬱憤晴らしをかねた教育を施す。
大人げない行いだが教師の権限の範疇であり、スコットは好んで行っていた。
問題の生徒――ソラの今後の扱いが決まった瞬間だった。




