白服のお嬢様?
突然だが魔法学園の制服の話をしよう。
魔法学園では衣食住は無料で支給されるので、基本的に生活費はかからない。俺のいる寮ではほぼ全員が支給された制服を着用していて、私服を着ているのは一部の金銭に余裕がありオシャレにうるさい人間だけだ。
俺たちに支給された制服は黒の長袖で、ポケットが多く、汚れや擦れに強い素材になっている。言ってしまえば作業服の一種である。厩舎の仕事などで汚れたりひっかけたりすることも多いので丈夫で汚れが目立たない服は実用性が高い。
そういうわけで実用性は高いのだけれどデザインとしてはやぼったい制服を、俺もクラスメイトたちも全員着用している。学園に戻って待ち合わせの場所に現れたリゼットも同じ制服だった。多少手を加えているのかアクセサリーなどを着けて可愛くしているが、基本的には変わらない黒服である。
そんなリゼットの隣に、真っ白な制服を着用した女生徒が付き添っていた。実用性一辺倒の黒服とは違い、おしゃれで生地も上等なものを使われている、いかにも金のかかっていそうな服である。一瞬私服かと思ったが胸の部分に学園の校章がついていた。
「クラール様。彼が従魔学科の少年です」
「そう」
こちらにチラと視線を向けたが、まったく興味の感じられない無味乾燥した眼差しだった。
「リゼット。早くしてちょうだい。私は忙しいの」
「は、はい! ただちに!」
リゼットが手に持っていた水瓶を地面に置いた。
「ソラ、これが廃ポーションよ。スライムは?」
「ここにいるけど」
「じゃあ、早速飲ませてあげて」
「わ、わかった」
有無を言わさぬ迫力で早く早くと急かしてくるリゼットの勢いに負けて、水瓶の中にスライムを入れる。中身は間違いなく廃ポーションだったらしくあっという間に飲み干してしまう。魔力がたっぷり残留していたのかもの凄い飲みっぷりだった。
「魔石は?」
「あ、ああ。これ。あの水瓶一つ分ならこのくらいだろ?」
「……うん、そうね、これでいいと思う。――クラール様、いかがでしょう」
「……ええ、いいわ。この品質なら少しは使い道があるでしょう。認めます」
「ありがとうございます、クラール様! ほらソラ、あなたも!」
「え? あ、ありがとうございます」
「……リゼット。これを使うつもりなら礼儀作法と身だしなみを覚えさせなさい。貴女の品位も疑われるわよ」
「は、はい……申し訳ありません」
「はぁ……」
俺が渡した魔石を手に持ち、それ以上何も言わずに白服の少女は踵を返して歩き出した。
「あ、ソラ! またね! 今度はゆっくりお話ししようね!」
空になった水瓶を持ったリゼットが慌ててその後を追いかける。こうしてリゼットとの初回の取引は終わった。
◆
――翌日。
廃ポーションから魔力が抜ける前に渡してほしいと要望を出したので、今日もまたリゼットが水瓶を持って取引にやってきた。昨日一緒にだった白服の姿は今日はない。
「昨日のあの子が、リゼットの仕えているお嬢様?」
なんだか取り付く島もないというか、俺と関わりたくないオーラがぷんぷんしていた。ああいうのが上流階級の人間なんだろうか。
だが、そう聞いたらリゼットに笑われた。
「違うわ、あの人はお嬢様の側仕えの方よ。お嬢様は赤の制服を着ている本物の貴族よ」
「赤の制服? 見たことない」
「当然よ。貴き方々が私たちみたいな庶民の前にそう簡単に姿を見せるわけがないじゃない。私だってお嬢様を直接見かけたのは数えるほどしかないの。ほとんどは昨日のクラール様みたいな白の制服を賜った方々から言付けを言い渡されるだけよ」
貴族の赤、富裕層や貴族の従者たちの白、庶民の黒。この学園には三種類の制服があって、その中でも赤と黒が交わることはほとんどない。
「あなたに廃ポーションを融通することになったと報告したのだけど、廃ポーションの処理にはいくつも決まりがあるから、あなたがちゃんと処理をするのか確認に来られたのよ。もしもあなたがその辺の草むらにでも廃ポーションを捨てたらお嬢様が罰される可能性もあるの」
学園は魔法薬の廃棄処理に厳格で、学園側が処理をする場合は費用を要求している。そういう仕組みを無視して好き勝手に魔法薬を廃棄するようなことをした場合、厳しい処分が下されることもあるらしい。
なので俺が廃ポーションをスライムに吸収させてしっかりと処理をしたこと、そして廃ポーションの対価にリゼットが魔石を受け取ったことを確認するため、お目付け役として昨日のクラールという女子がやってきたのだ。
「今日も廃ポーションはここで飲んでいってちょうだいね。持ち帰られると困ってしまうからお願いね」
「わかった。多分そんなに時間はかからないと思うけど進化するまでよろしく頼む」
「あんまり早く進化されちゃうと余った分の処理にまた悩まされるんだけどね……」
こうして最初に思わぬ珍客が登場したが、それ以降は特に問題もなく、毎日リゼットとの取引をするようになった。




