錬金術師の苦労と契約
「これはね、私が仕えているお嬢様が作ったアイテムなの」
露店に並ぶ廃ポーションを指さしながら店主――錬金術学科三年生のリゼットは言った。
「お嬢様は錬金術学科の一年生でね。ポーションの作成が今年度の課題なのよ。それで自主練習として大量に作ってるの」
「なるほど。従魔術の方と似たような感じなんだ」
うちの学科はスライムとマンドラゴラだったけど、他の学科にも年度ごとの課題が存在するらしい。
「私も去年やらされたんだけど、試験では先生の前で成功作のポーションができるまで何度も何度も繰り返しポーションを作らされるの。これが一回でできないと恥ずかしいことで、特にお嬢様みたいな貴族の方は一回でできて当たり前って思われているの」
「だからこんなに作って練習してるんだ」
「そう。材料もたくさんあるから大量に作れるんだけど、作った後の処分に困るのよ。置いておいてもどんどん魔力が抜けてしまって劣化するし、そもそも場所を取るから邪魔だし。中には全部捨ててしまう方もおられるんだけど、魔法薬の類いって処分する時にお金を取られるから、そういうことができるのってお金に糸目をつけない本当にお金持ちの方だけなのね」
「……話には聞いていたけど、錬金術ってとんでもない金食い虫だね」
「しっかりと勉強して扱えるようになれば十分元は取れるけど、それまではとにかくお金がかかるかな」
ポーションの自主練習に使う材料代も全部自費で賄っているという話だし、本当に極一部のお金持ちだけが学べる魔術なんだろう。従魔学科はほとんどお金がかからないから俺みたいな貧乏人には優しい。
「授業の時間に作るポーションは学校が材料を用意して、成功作も失敗作も全部学校が持っていくの。騎士団の人たちが怪我をしたときに使うらしいわ。あの人たちって戦闘訓練でいつも怪我をしているから」
「じゃあこの廃ポーションも学校に持ち込めばいいんじゃない?」
「自主練習分のポーションは学校が引き取ってくれる数に限りがあるの。そうじゃないとみんな際限なく作り出して学校の倉庫がポーションで埋まっちゃうからダメなんだって」
「そりゃすごいな。……この露店のポーションって何日分なの?」
「これ? これは三日分くらいよ。これ以上貯めると私の部屋が埋まっちゃうし」
露店に並ぶ廃ポーションの数は五十本以上。リゼットの仕えるお嬢様は一日に二十本くらいのポーションを作っているらしい。錬金術学科の一年生が何人いるかわからないが、百本とか二百本とかそういうペースで作っているんだろう。
「……ねえ、リゼット。魔力の少なくなった廃ポーションや魔力が抜けきった廃ポーションってどうなるの? 効果がなくなる?」
「ううん、ちゃんと回復作用はあるわよ。しっかりしたポーションなら傷口にかけたらあっという間に治るけど、魔力が少ないポーションはもうちょっと時間がかかるの。魔力の残量で回復量が変わってくるみたいね。
でも、完全に魔力が抜けきっちゃったポーションだとほんの気休めくらいまで落ちちゃうから気をつけて。傷口にかけておくと少しだけ治るのが早くなるのと、傷口が悪くなりにくくなるくらいかしら」
「え、化膿止めになるの?」
驚いた。魔力が抜けてても化膿しなくなるなら十分な効果じゃないか。
傷口の化膿は恐ろしい。小さな傷を放置して悪化させたせいで高熱を出したりして身動きできなくなり、そのまま死んでいった人間が何人もいた。俺と同じスラムの孤児だけじゃなく、大人の冒険者にもそういう人間がいたのだ。
孤児院に入ってからは先生に傷口はよく洗えと言われていたし、この魔法学園に入学してからも気をつけていたけど、これは欲しい。
「ねえリゼット、ちょっと相談があるんだけど、この廃ポーションって大量に買えない?」
「え? 買ってくれるなら嬉しいけど……でも、大量に買ってもすぐに魔力が抜けちゃうわよ?」
「魔力は多い方がいいけど、なくても構わないかな。スライムの餌にしようと思うんだ」
スライムが廃ポーションスライムに進化させたら化膿止めがいつでも手に入るし、魔石や魔水と同じように魔力を込めることができればポーションになるはずだ。
リゼットたちは処分に困っていた廃ポーションを処分出来て、俺は廃ポーションやポーションが自分で作れるようになる。いい取引だと思う。
「スライムの餌かぁ。まあいいけど、じゃあまずこの商品全部買ってく? さすがに無料であげちゃうと問題があるから、値段はこのくらいになるけどいいかな?」
リゼットが言った値段は在庫処分ということで少し安めになっていた。
でも、できればもう少し安い方がいい。スライムが進化するまでもう何度か購入しなくちゃならないから値切っておきたい。
「その値段って瓶の値段込みじゃない? 俺が欲しいのは中身だけだから瓶は返すよ。だからその分値引きしてほしいな」
露店に並ぶ瓶詰の廃ポーションを手に取り、瓶はいらない、と伝えた。バケツに直接ポーション入れて持って来てもらっても構わない。どうせスライムの餌だ。
「あ、そうよね。じゃあ瓶の代金分を引いて――」
その後、リゼットとの価格交渉を無事に終えて、俺は大量の廃ポーションを定期的に手に入れることに成功した。しかも支払いは魔石払いでも可。手持ちの現金を使う必要もなく、とてもいい取引ができたのだった。




