魔石作成、そして
――魔力ー!
――石ー!
コロン
「……うん、間違いなく魔石だ」
一週間かけて進化させたストーンスライムだったが、予想通りマナスライムとのかけあわせで魔石をつくることができた。
マナスライムは魔力をただ放出することしかできない役立たずと思われていたみたいだけど、石や水をつくれるスライムと組み合わせることで魔力が続く限りいくらでも魔石や魔水をつくれるとても有能なスライムだった。
それとマナスライムが数回魔力放出したら死んでしまうという話も、マナスライムとの意思疎通がうまくいかずに限界以上に魔力を放出させようとして死なせてしまったんだと思う。うちのマナスライムたちは限界が来る前に止めるようにしているので元気いっぱいだ。魔水をつくったり、マンドラゴラに与えたり、魔力を使う仕事が増えてきたので、もっとマナスライムを増やしてもいいかもしれない。
「これから従魔の数を増やしていこうとしたら魔力ももっとほしくなるし、マナスライムはいくらいても足りないな。……でも分裂させようとすると大変だし、まだしばらくはいいか」
そのうちまた量産をした方がいいんだろうけど、疲れるからとりあえずしばらくはいいや。何かいい方法が見つかったら考えよう。
そういうわけでマナスライムの量産は置いておいて、次に考えるのは未進化のスライム二匹をどうするかだ。発表会用に良さそうなスライムを考えてみたが、普段から使う物や売れる物をスライムにつくらせるのがいいと思う。
例えば授業などでも使える紙やインク、カンテラ用の油、これから寒くなることを考えると炭もいい。麻や木綿、毛糸なんかも布じゃなくて糸の状態なら値段は控えめだ。
「うーん、この中だと炭が一番安いか?」
スライムに大量に食べさせるなら炭が一番安上がりな気がする。まだ季節は夏だし、本格的に冬の準備を始める前に買っておけば大丈夫だろう。
とりあえず炭を第一候補として、俺は出かける準備を始めた。
街に繰り出して炭の値段を確かめることと――つくった魔石を売りに行くためだ。
◆
魔石は魔道具関連の商店でも売買できるけれど、そちらに向かわずに【学生ギルド】と呼ばれる施設に向かった。このギルドは学生が短期間のアルバイトを探したりする場所で、金欠の生徒がちょくちょく顔を出して依頼を受けている。学生の金稼ぎといったらまずはここ、という定番スポットだ。
こじんまりした二階建ての施設の中に入ると正面に受付が五つ並んでいて、右側の壁にいろんな紙が貼られたボートが置かれ、左側は階段になっていた。何人かの生徒が右の壁の前で紙を見ていたくらいでギルドの中は閑散としていた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。学生さん?」
「はい、従魔学科の一年です」
とりあえずまっすぐ進んで受付に声をかける。初めての利用なのでまずはギルドの人に話を聞く。対応してくれたのは四十代くらいのおじさんだった。
「あの、ここで魔石の買取をしてもらえるって聞いたんですけど」
「ああ、はいはい。魔石の買取ね。ギルド証は? まだ作ってないの?」
「今日が初めてです」
「うん、じゃあ学生証借りるね。持ってるよね?」
「はい」
学生証は魔法学園が発行している身分証だ。基本的に常に携帯しているように学園から言われている。
「はい、じゃあお借りします……うん、今年入学した一年生、従魔学科のソラくん、と。はいじゃあこれ、ギルド証だよ。魔石の売却が希望みたいだけど他の説明は聞いていくかい?」
「お願いします」
学生証を見ながら書類にさらさらとペンを走らせて、あっという間にギルド証が出来上がった。ふちを黒く塗った木の板に俺の名前や学科などが書いてある。
「じゃあ説明するけど、ギルド証は黒・白・赤・金で分かれているんだ。これは他の、例えば商業ギルドや冒険者ギルドでも基本は同じだから覚えておいた方がいいよ」
「はい」
「黒っていうのは一番下の見習い。白が黒の上なんだけど、白に上がる子は学生さんだとあんまりいないかな。その上の赤なんて最上級生でも数人いればいい方だね」
「金はいないんですか?」
「金はなんていうのかなぁ……名誉色っていうか、普通じゃあり得ないとんでもない偉業を成し遂げた人だけに与えられる色なんだよ。成体のドラゴン倒したとかそういうの」
「成体のドラゴン……ですか」
ちなみにドラゴンを倒した冒険者はドラゴンスレイヤーを名乗れるが、それくらい名誉あることとされている。魔法学園の最上級生が五年生、十五歳なので達成できるわけがない。もしも達成できたら新しい英雄譚の誕生だ。
「で、話を戻すけど、黒の子はあそこ、あのボードに張り付けてある依頼だけ受けれるんだ」
「あのボードだけ、ですか」
壁にかかっていたボードを指さして受付のおじさんが教えてくれる。
「あそこにあるのは常設の依頼でね。薬草を集めてほしいとか魔石を買い取りますとかそういう依頼や、何月何日に排水溝の掃除をするからお手伝いさん募集とか、そういう依頼が出ているよ」
「へえ、冒険者ギルドの依頼に似てるかなと思ったけどちょっと違うんですね。ゴブリンの間引きとかそういう依頼はないんですか?」
ダンジョンの街に集まる冒険者たちから聞いたことがあるけど、冒険者ギルドの常設依頼にはゴブリンの間引きなんて依頼もあったはずだ。放っておくとあっという間に増えすぎるのでそういう依頼が出ているらしい。
「ははは、学生の、しかも一年生や二年生だって受けるかもしれない依頼にそんな危険な依頼を置いておけないよ。そういうのは白の子たちの依頼さ」
「へえ、白の人ならそういう依頼もあるんですか」
「まあ、あまり詳しいことは教えちゃいけない規則なんだけど。黒の依頼を何度も受けてもらって、この子なら実力もあるし信用できるってギルド側が判断したら白に昇格させて新しい依頼を受けられるようにしてるんだ」
受付のカウンターの中から何枚も紙が挟まったファイルを見せてくる。外側だけで、中の依頼までは見せてくれない。
「こっちはちょっと難しい依頼だから確実にこなせるような子しか紹介していないんだよ。もしも失敗されたら依頼人もうちも困っちゃうからね。君も受けたいなら焦らずにまずは黒の依頼を確実にこなしていくことだよ」
「はい、わかりました」
学校の授業の間に依頼を何度も受けて、実績と信頼を稼がないといけないシステムらしい。
ギルド証のランクアップや高位の依頼に興味があるけど、そこまで時間が取れるかわからないな。白や赤まで上げるのは思った以上に大変そうだ。
「じゃあ説明はここまでとして、魔石の買取をしようか。高価な品物なら奥で買い取りもできるけど?」
「いえ、そこまでじゃないんでここで大丈夫です」
「ん、じゃあこのトレイに置いてくれるかな」
「はい」
おじさんの出したトレイの上に今日つくったばかりの魔石を三つ置いた。
「へえ。意外と質がいい魔石だね。もしかしてソラくんが自分で取ってきたの?」
「自分で拾ったのと貰った奴ですね。シスの出身なんで」
「ああ、ダンジョンのあるあそこか。ダンジョン産の魔石はうちじゃ珍しいね」
「そうなんですか? 魔石って言ったらダンジョンだと思ってましたけど」
「一年生だとまだ習ってないと思うけど、学園の裏山の森でも奥まで行くと魔石が拾えるんだよ。上級生だと小遣い稼ぎに持ってくる子が多いね」
なんと学園の裏山や森でも魔石が拾えるらしい。魔石が出るってことはダンジョンと同じように魔力が濃くて魔物が湧く場所なのかもしれない。奥の方まで入るのはやめておこう。
「じゃあこれが査定だね。どうだろう?」
「……はい、大丈夫です。これでお願いします」
俺が思っていた以上の値段だった。こんな高く売れるのか。
「ふふ。驚いているみたいだけどシスの街は魔石の産地だからね。他の街より魔石が手に入りやすいから買取価格も低いって噂だね。この辺だったらこのくらいの値段が普通だからよく覚えておくといいよ」
「ありがとうございます。覚えておきます」
いろいろと親切に押してくれたおじさんにお礼を言って受付を離れた。想像以上の金額で売れて懐がホクホクである。さすがに毎日売りに来たら怪しませそうだけど、あと何回かはシスの街から持ってきた魔石って言えば大丈夫だろう。
「……あ、スコット先生の依頼がある」
帰りにボードの依頼を見ていたら、スコット先生のスライム捕獲依頼が貼られていた。授業に使っていたスライムってこの依頼で集めていたんだろうか。この辺にいるなら俺も探してみようかな。




